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第36話

 いまでさえ、これだけ男前なのだ。さぞや学生時代はモテただろう。きっと数多くの女の子を泣かせたに違いない。にやにや笑う希に、奎吾は一瞬で表情を消した。その顔に皮肉な笑みが浮かぶ。 「同級生の男と一緒にいるのが見つかって、クラス中でハブられたって? そんな話が聞きたいのか? ・・・・・・って、どこかで聞いた話だな。ただうちは味方になってくれるような家族はいなかったけどな。それまで自慢の息子だなんだと褒めそやしていたのが、手のひらを返したように冷たくなった。お前は異常だと病院につれていかれたよ」  そのときの奎吾の気持ちを想像したら、希は胸がぎゅっと締めつけられた。そんな希を見て、奎吾はやめろと顔をしかめた。 「見え透いた同情のふりなんかするな」 「でも悲しかったらろ?」 「ああ?」 「あんたが悲しかったとき、られかが側にいたらよかったのに。異常なんかじゃないよって言ってくれたらよかったのに」  大丈夫だよ、おかしなことなどないよ、と。  希は手を伸ばすと、まるで小さな子どもにするみたいに、奎吾の頭をくしゃりと撫でた。奎吾が目を丸くする。希はふにゃっと微笑んだ。  ぐらりと視界がまわる。ああやばい、飲み過ぎたかもしれないと希が気がついたときには遅かった。希の目蓋がとろんと落ちる。 「おい・・・・・・! お前こんな場所で寝るな・・・・・・! マジかよ、グラス二杯だぞ?」  奎吾の声が次第に遠ざかる。  ごめん、ほんの少しだけ目を閉じたら起きるから・・・・・・。五分だけ目を閉じていてもいいだろうか・・・・・・?

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