2 / 2
第2話
暇さえあれば毒きのこは、真っ白いキャンパスに毒々しい絵を描きつづけている。これが毒きのこのあだ名がついたもう1つの理由。
自称、美術部のエースらしくて、彼の制服は色とりどりの絵の具があちこちに付いている。
「おじゃましまーす」
美術部の壊れた扉を無理矢理開けて中に入ると、毒きのこの手は真っ赤に染まっていた。
驚いて目を見開くと、毒きのこはそれに気付いてケラケラと笑い転げる。
正直言って、毒きのこのツボが分からない。
「おっすー、ポチ」
毒きのこは俺をポチなんてふざけた名前で呼ぶ。理由を聞いた所、昔飼っていた犬に顔がそっくりで、性格もうり2つなんだって。馬鹿らしい事をペラペラと教えてくれた。
「これ、お姫様がお前に」
「あぁ、あの二重人格ちゃんが?俺さ、あの子嫌いなんだよね。ほんと、性格悪いから。」
お姫様も毒きのこが嫌いだって言っていた。
そんな言葉は胸にしまって、適当に相槌をついた。毒きのこは汚れた手のまま封筒を破いて中の書類に目を通す。
「毒きのこって、思考はクソみたいだけど。頭は良いし運動も出来るし良いよね」
「だって俺、アルファーだし」
「……まじ?」
「うそ」
驚いた俺を見て、毒きのこはまた腹を抱えて盛大に笑い転げる。そんな毒きのこに腹が立って、足をグッと踏んでやった。
「いったいなぁ、もう…ごめんって」
「毒きのこの噂、本当なの?ベータのクラスにオメガとアルファがいるってさ」
「それは本当」
さっきまでの笑顔はどこかに消え、毒きのこは俺を見つめてそう言った。
何故か分からないけど、この噂が本当なんだと思ってしまって、俺はそれ以上の事は言えなかった。
アルファとオメガなんて、ベータの俺からしたら特別に非現実な世界の話だ。
2つとも、小さい頃から現実だけど非現実の話であって、だから気にした事なんて無かった。
同じ学校に通っていたとしても、クラスはハッキリ分かれているし。
アルファの凄さも、オメガがの辛さも俺にはさっぱり分からない。
そんな非現実の人間が、ごく普通の一般人と生活をしているなんて。
人生何があるか分からない。
ともだちにシェアしよう!