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第1話

「ねぇ、500円で買い物してきてくれる?」 「???」 馨の家に行った統太は玄関で靴を脱ぐ前に500円玉を渡された。サノヤのポイントカードも渡された。 「ゲームだと思って500円ピッタリに買い物してきて。それでご飯作ろう」 今日は二人の休みが重なって、統太が馨の家に行くことになっていた。統太はなんで500円なんだろうと思っていたが馨が慌ただしく続けた。 「買ってきてくれたもので今日のおかず作るからなんでもいいよ。いまちょっと手が離せないから、ごめん一人で行ってきて」 「わかった! いってきます」 馨の笑顔に優しく送り出されスーパーサノヤに向かった。サノヤは統太も馴染みのお店になりつつある。馨に教えて貰って仕事帰りに買い物に寄るようになった。とは言ってもまだ馨と知り合って一ヶ月経つか経たないかくらいで、休日に会うのも今日が初めてだ。 店の前には自転車がいつものように整然と停められている。統太が通りに向かって並べられた野菜盛りをどれにしようか悩んでいると楽しげな声がどこからか聞こえてきた。 「るんたった、るんたった♪」 ミルクティー色の巻き毛をふわふわ揺らした不思議なテンションの子が、手を真っ直ぐ前後に振って元気よく近づいてきて隣に並んだ。 「お買い物えらいの~ん。ご飯のおかずかしらん? 遥ちゃんは今日はコロッケ! うちの稜而はコロッケを飲み物みたいにたくさん食べちゃうの~ん」 僕に話しかけてる? 統太が考えているうちにその子は買い物カゴを手にして、統太が迷っていた特売の野菜盛り200円(税込)を迷わず入れた。それはじゃがいもが多めに盛ってある。統太もコロッケを馨に作って欲しいと思いながら、でもじゃがいもは大きいから三個あればいいだろうとニンジンとナスが二本ずつ一緒に乗っているのをカゴに入れた。あと300円。 「遥ちゃんのコロッケは下味が濃いめだからそのままたべられるのよー」 統太は遥ちゃんという名前だと思われる細身の、女の子みたいな男の子に付いて店内に入った。 「大きなトマトが二個で50円! かつお節としょうがの千切りとオイルと漬け込んでおかずサラダにするんだわ~」 統太は僕に教えてくれてるのか、それとも思ったこと全部喋ってるのか、どっちなんだろうと思いつつ面白いからトマトをカゴに入れついて行くことにした。あと250円。 「コロッケには合い挽き肉~100グラム65円! まぁまぁですのん。沢山作るから200グラム!」 僕と馨さんは作り置きするとしても100グラムでいいなぁ、たぶん。そうすると……あと185円。何か青物が欲しいところだけど。 「ああ~ん! バニラアイスクリーム業務用がお買い得なの~ん。でもあと120円しかないのよ~~!」 冷凍コーナーの前でその子はイヤイヤをするように髪を振り乱している。 あれ? もしかしてこの子も500円で買い物なの?残りのお金で何買うんだろう。アイスクリームを諦めて歩き始めた後ろ姿を見ていると 「お味噌汁に油揚げとお豆腐~いつものお豆腐と違うけどいいのん。今日はピッタリお買い物するのん!」 油揚げ45円豆腐75円。ピッタリだ、上手に終わらせたなぁ。僕もピッタリ買い物したい! 統太はキョロキョロと辺りの値札を確認しながら生鮮野菜コーナーに戻る。大きなほうれん草が二束150円。あと35円……。それにしても、なんで今日は端数がみんな5円なんだろう? あ、あったコンニャク35円! 統太はゲームをクリアしたような達成感を感じてレジを待つ列に並ぶと、さっきの子が既に会計を済ませて、ポケットから出したエコバッグを開いて自作のような歌を歌いながら買ったものを詰めていた。すれ違う人皆に「ごきげんようですの~ん」と言いながらスキップで出ていく。あの子が通った跡にはお花が咲きそうだ。 家族のごはん作ってるのかなぁ、楽しそうだなと思いながら列をつめるために一歩進むと前の人の会計も500円だった。今日はそういう日なのかと気付き始めた時、統太の番が回ってきた。スタンプカードを出すとポポポポポンと沢山スタンプを押される。会計はもちろん500円だ。

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