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第2話

「馨さん! 今日は500円の日なんですか?!」 統太は馨の家に戻るといきなり質問した。買い物袋を受け取りながら統太を部屋に上げた馨は 「上手く500円にできたんだね!」 統太から受け取ったレシートとポイントカードを見た。 「奇数月の五日は500円の日なんだよ。ポイントが五倍、端数も全部5円、ピッタリ買うなら一日二回までポイントを倍くれる」 馨は素早く袋から中身を出しながら説明をする。 「コロッケ、焼きナス、にんじんとコンニャクのきんぴら……って感じ?」 「わー! 凄いね、馨さん」 「ありがとう、とりあえず座って」 既に何度か遊びに来ている馨の部屋は統太の部屋よりは生活感がある。壁にはポストカードが無造作にピンで留められていたり、着るためでなく飾りのような服が掛けられていたり。いい意味で雑然としていてその中でも統太は部屋の割に大きいソファに座るのが気に入っていた。 「さっきこれ作ってたんだ、どうぞ食べてみて」 シフォンケーキに生クリームがトロリ、ココアパウダーもかけられている。 「カフェみたい」 紅茶も運んで馨は統太の隣に座った。 「生クリーム泡立ててたからタイミング外したくなくて。残りはチョコクリームにしたから明日また食べよ」 明日また……という言葉に統太は嬉しくなって 「明日も来てもいいの?」 と馨の顔を見てからはっと顔が赤くなるのを感じ、シフォンケーキにフォークを差し込みひとくち食べた。 「いつでも来てよ。一緒にご飯食べよう」 すごく色の薄い紅茶に口を付けながら統太は顎だけで小さく頷いた。その紅茶は香りも味も見た目よりハッキリしていて生クリームに負けていなかった。 「僕のうちにある紅茶とは全然違う! こういう味の紅茶は初めて。ケーキと生クリームにすごく合ってる。思った通り馨さんはケーキも上手に作れるんだなー」 「卵の白身って余るから冷凍して貯めておいて作るんだ」 馨は美味しそうにケーキを口に運ぶ統太の姿を眺めて紅茶を口にした。お気に入りのダージリンも気に入ってくれたようで嬉しくなる。 統太は一気に食べ終えるとソファの背もたれに寄りかかった。拳一つぶんくらいの距離に馨が並んで座っているから肘が当たって 「あ、ごめんなさい」 と慌てて謝る。 「大丈夫だよ」 馨も背中をソファにあずけて統太に顔を向けた。その顔は統太の肩のすぐ横で髪は統太の肩に触れている。ドキッとして動けなくなった統太に馨は 「なんか緊張してる?」 と顔を近づけたままで声を出し、ふふっと笑って手を取り揉み始めた。 「リラックスして~。マッサージしてあげるから」 余計に固くなった手の平を馨の親指で押さえるように刺激されて手から力が抜け、やっと気持ちを建て直した頃に 「はい、おしまい!」 と、手の甲に唇をちゅっと付けられた。ぶわーっと一気に顔が熱くなり統太は 「今日! サノヤで女の子みたいな男の子にあったんです!」 いきなり思いついたことを口にした。手に唇の感触が熱く残っていて思わずその場所を口元に当ててしまい、統太はもう下を向くしかなかった。 「その子知ってるよ、たぶん。髪が縦ロールのかわいい子でしょ」 馨の言葉に統太はうつむいたまま小さく顎を引く。 「でも統太くんのがかわいいけどね」 「えっ……」 横を見ると馨はいつものように優しく微笑んでいる。 「たしか稜而くんっていうダーリンにご飯作ってあげるって言ってた」 「ダーリン……」 もう統太の思考はあちこちに散ってどう答えたらいいのかわからなくなっている。 「僕も統太くんにご飯作ってあげるの楽しいんだ。統太くんのこと好きだし」 馨はサラッと意味深なことを言うとまたソファに頭を預けて統太を見つめた。その視線に統太の心臓が暴れ抑えられなくなって出口を探した。 「あのっ……僕……たぶん初めて会った日から馨さんのこと好きです、僕の方が先に好きになったと思います……」 テンパって余分なことまで口にして更に心臓が大きく動く。 「わーーーー! 今の無しです、ごめんなさい。そういう意味じゃないんですよね、勝手に盛り上がっちゃってあのっ」 立ち上がろうとした手を馨が掴んで 「さっきお店の外で初めて統太くんの手に触れちゃった。これからも触れてもいいのかな」 と言ってから少し不安そうに目を逸らした。柔らかい手の感触を確かめるように統太は両手で握り返しながら馨と目を合わせるためにのぞき込んだ。 「お客さんじゃない時に僕からも触ってもいいってこと?」 驚いたように統太は目を見開き、頬を緩ませながら見つめた。その目を見つめながら馨は隣にくっ付くように座らせ手を解いた。 「もう一度繋ぎ直してもいいかな、こんな風に」 馨は手の指を互いに絡ませる「恋人繋ぎ」をして見せた。 【終】

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