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話)両片思い
修道院侑。
かの有名な修道院家の長男で、日本のみならず海外でも活躍するトップアイドルで、僕の高校の同級生です。
僕は大ファンで、1ファンで、修道院君の最初のファンで、セフレでもあります。
今日は修道院君がセンターを務めるアイドルグループ『Taylor』のドームツアー最終日。投げキッスのうちわを持って、修道院君が目の前に来るのを待ちます。
ラストまであと少しと言うところでしょうか。近寄ってきたのは修道院君ではなく、アルマ君です。ハーフの見た目で、彼は僕の大学の同級生です。話した事もありますし、アプリの連絡先も知っています。
ただ、失礼ですが、あまり用はないです。
あっ、目があった。
一瞬きょとんとしたと思いきや、手を振ってくれました。周りの女の子達はきゃーと叫んでいます。
一応、その雰囲気というかノリに合わせてうちわを振ります。それを見たアルマ君は呆れ顔をしたのち、投げキッスをしてくれました。
あまり興味はありませんでしたが、涙を流している子がいたので、なんだか申し訳ないです。
アルマ君をはじめとするグループメンバーは所定の位置に戻ります。
集まって歌って、最後はいつも通りジャンプで締めました。アンコールはありません。それは、Taylorの拘りです。
グループメンバーが去る前にアルマ君が修道院君に話しかけられていました。一瞬、修道院君と目があった気がします。
それだけで、なんと幸せでしょう。
これで1ヶ月は生きられるというものです。
ライブは好評に終わり、帰路につきます。
と、その前に携帯の電源をつけます。たまに電源を落としたままで、修道院君の連絡を無視してしまいます。その日の修道院君は鬼のように怖いので、ライブや映画の後はすぐにつけるようにしています。
電源をつけてすぐ、バイブ音が響き渡りました。
『待っとけ。』
一言だけです。
それは修道院君からの連絡。
一眼見れば分かります。
なぜなら、僕の友人にこんなにも傲慢な人はいないからです。
ライブ終わりに裏口から出てくることはありません。本来なら車で立ち去ります。それは、熱心なファン対策の為です。
僕はどこで待つか。
いつも迷います。
その為、とりあえずその辺のベンチに腰掛けました。
ぼーっと空を見上げます。
お月様です。
「今日は三日月でしたか。」
「お前、相変わらずぼーっとしてんな。」
俺様何様修道院様です。
帽子を被りサングラスを掛けてもオーラは全く隠せてません。
モロバレです。
「変装にもなってません。オーラが飛び出てます。」
「うっせ。ここから離れんぞ。」
「どこに行きますか?」
「お前の家だ。」
「そうですか。」
男2人。僕の家に行っても勿論怪しまれることはありません。なぜなら、男2人だからです。
しかし、気をおくことはできません。最新の注意を払いながら僕の家に到着。ここから流れはセックスです。
ライブ終わりなのにご苦労様です。
ベッドで愛を確かめた後、ああ、いえ、愛があるのは僕だけなのですが、修道院君に手料理を振る舞います。
僕の腰は限界でしたが、お構いなしです。その代わり、修道院君は僕のお昼の残飯処理をしてもらいました。
「お前、なんで言わなかった。」
「何がですか?」
「チケットやるって言っただろ。」
今日のライブの話です。
先月だったか、その前だったか、確かにライブチケットやると連絡がありました。
有り難く断りました。
「僕は1ファンで大ファンなので、お金は自分で払います。修道院君からチケットを貰ってしまえば、僕はファンをやめることになります。分かりましたか?」
僕はドヤ顔で言いましたが、どうにも修道院君は納得行かない様子でした。
「お前は俺のことをどう思っている。」
「はい!僕は修道院君の1番のファンで、愛しています。」
渋々と言ったところ。
溜息をついて、修道院君は納得してくれました。
何が問題なのかよく分かりませんでしたが、修道院君は今日もカッコ良かったです。
修道院侑。
トップアイドルとして活躍する御曹司件、只野歩の恋人。
…の筈だった。
「アツム、歩君来てるよ。」
終盤間近にて、耳元でアルマに呟かれた。
は?と口に出して探す。
右、右。と言われその方角へと目を向けると確かに見覚えのある顔があった。
俺がチケットをやると言った時即断りの返事が来た。その時仕事かと諦めたが、何故いる。何故俺のチケットを断った。
そもそもあいつはよく分からない。愛していると言いながら、あいつから連絡はこない。僕の全てはあなただと言いながら、平気で俺から目を離す。
それにいつまで経っても修道院呼び。
侑と呼ばれた記憶はない。
「修道院君」
と必死に呼ぶ姿は可愛くて訂正しない自分も非はあると思うが、そろそろ名前で呼んでほしい。思えばアルマは名前呼びだ。呑気にコーラを飲んでいるアルマを睨みつける。
「チッ」
「待って、俺今何で舌打ちされた!?」
他のメンバーがなんだなんだと集まってきたのを全てアルマに押し付け、俺はスマホを取る。
『待っとけ。』の一言。
そうしたらあいつは大体近くのベンチに腰掛ける。どうせ月を見上げてぼーっとしている筈だ。さっさと着替えて、歩を迎えに行こう。
「今日は車使わない?」
「ああ。」
「歩君によろしく〜。」
「ああ。」
メンバーと別れて歩を探す。何番出口あたりと目星をつけて、一直線に向かう。予想通り歩はそこにいた。
やっぱり月見てぼーっとしてて、どうにもならない安心感が襲った。
早く、早く、早く。
抱き潰して愛したい。
歩の飯を食う。
焼きそばは多分昼の残りだろう。俺を好き好き言う割にこういうことを平気でやる。本当に図太い神経をしている。
そもそも俺はトップアイドルなんだが、そう思いながら焼きそばを眺める。まぁ、上手いからいっか。
そういえば。
「お前、何で言わなかった。」
「何がですか?」
「チケットやるって言っただろ。」
ああと言って、変な屁理屈が返ってくる。100譲ってチケットは自分で買いたいと言う気持ちは甘んじて受けよう。
ただその理由がファンだから。ファンファンって言うが、お前はそもそも俺の恋人だろ。そう言いたいのを我慢して、こいつの気持ちを確かめる。
「僕は修道院君の1番のファンで、愛しています。」
愛しています。
その言葉だけで満足しよう。
これからもっと甘やかしてファンからただの恋人へと移行させよう。
ニッコリと笑った歩は馬鹿で鈍感で空気の読めない可愛い俺の恋人。
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