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静まり返ったリビングにかすかに雨の音だけがしていた。照明がぎりぎりまで落とされた室内を真也はゆっくり歩いていく。 その人が眠るソファーの置かれた場所まで。 奪ってしまえるのなら奪ってしまいたかった。 それなのに 寝顔に近付けた唇はあと数ミリ先の唇に辿りつけない。焦がれ続けた歳月は今も変わらず真也の衝動に歯止めをかけた。 「祐介さん……」 閉じられた瞼の奥の瞳がどんなに暖かく微笑むか知っている。すっと伸びた鼻筋の綺麗な横顔に何度も見惚れてきた。その横顔が誰のものなのか唇が、声が、誰の名前を呼ぶのかも。 全部、全部知っているのに。 それでもずっとずっと好きだった人。 忘れられなかった人。 断ち切れずに今夜まできてしまった初恋。 ーー祐介さん ーーオレの大切な人 ーーオレの王子様 雨が…… ーー雨が降るたび、会いたくなる人

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