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1 真也 (現在)
その夜、数合わせだと頼まれた合コンに参加したのは、ほんの気まぐれからだった。
ひとりでいるより、賑やかな中に身を置く方が孤独の色は濃くなる。
それを各務真也 は充分承知していたし、また案外それが嫌いではなかった。けれど今夜、帰りを躊躇 うのは全く違う理由からだった。
そんな真也に彼をこの場に誘った友人が心配そうな視線を送ってくる。
「大丈夫」の意味を込めて右手に持ったグラスを軽く上げると、それを見て友人はほっとしたような表情 をした。
その表情 に反射的に笑顔を返す。
作り笑いが上手くなったのは、長く煩った恋のせいで今夜帰りを躊躇うのも同じ理由からだった。不意に自嘲めいた思いが真也を襲い、手に持ったグラスは口に運ばれる事なくそのままテーブルに置かれた。あちこちで交されている会話は、なんの意味も持たないただの音として真也の耳を通り過ぎていく。
そんな時ここに居もしない人を想って、右腕の時計を触ってしまうのは真也の癖だった。
「素敵な腕時計ですね」
声をかけられて真也は初めて隣を見た。
そしてシャツの袖で少し隠れている腕時計を
「あ、これ?」
と、彼女に見せた。果たして彼女は
「わぁ、やっぱり素敵です。これって有名なメーカーさんのですよね。でもこのモデルは初めて見ました」
隣にいて自分に話しかけようともしなかった男に対して、気にしてる風もなく嬉しそうに話し続ける。
「最近腕時計しない人が多いからから珍しいなぁって」
「そう?スマホあるし、そのせいかな」
「そうなんですよね、でもやっぱり腕時計してる男性って良いなぁ〜って。私、腕フェチだからついつい見ちゃって。あっ、でも各務くんは時計してなくても凄くカッコイイです、やだ、私何言ってるんだろう」
赤くなって俯く名前も知らない彼女の横で、真也が想うのは、その彼女が褒めた腕時計の本来の持ち主のことだった。
ーー祐介さん、やっぱりオレは
ーー何処にいても貴方のことばかりだよ
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