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第4話

 聡慧様の顔が近づき、口を舐められた。ちゅっちゅっと接吻をする度に粘膜と柔らかい毛が顔に触れる。  緊張が解れ、口を軽く開けていると長い舌が口の中に入ってきた。 「んっんん……っ」  口の中を無造作に動く。時折犬歯が唇や頬に当たり、食べられている感覚に陥る。 聡慧様の唾液は甘露のようだった。山の湧水に桃の果汁を絞ったような甘さと瀞(とろ)みがある。  喉が乾いていたことを思い出し、聡慧様の唾液をごくごくと喉を鳴らしながら飲み込む。食道、胃を通し、身体に浸透していく感覚が巡る。聡慧様の口から唾液が垂れると掬(すく)うようにして舐めた。   「…余の唾液が美味いのか?」    聡慧様から言われ、自分が無我夢中で飲んでいたことに気づいた。 「あっ…はしたなくてすみません…っ!」 「よいぞ。嬉しい。もっと飲め。余の唾液は人間には媚薬だ。後が楽になる。」 「媚薬……」 「気持ちも落ち着く効果もある。…圭は初めてだからな。何も我慢しなくていい。痛いときも気持ちがいいときも声に出せ。余は圭の気持ちや声をしっかりと聞きたい。」      聡明様のお言葉に、ぐっと喉が絞られ、目頭が熱くなり、涙が溢れてきた。 「…どうしたのだ?」  急な涙に聡慧様が接吻をやめ、顔や頭をゆっくりと撫でる。その優しい手つきにまた涙が溢れる。  話そうとするが嗚咽でうまく話せない。 「ゆっくりでいい」  聡慧様はそう言うと、撫でながら自分が話すのを待って下さった。      「じ…自分は両親が…亡くなり……、今まで人に避けられて……生きてきました…。自分の気持ち…を…言える…、聞いてくれる人は…いませんでした…。聡慧…様の、お言葉が…とても嬉しい……、」  嗚咽で言葉が途切れ途切れになりながらお話した。    だって本当に嬉しかったのだ。このまま希望もなく、生きていくだけだと思っていたのに、欲しかったもの、欲していたものを聡慧様は与えて下さる。   「自分は……人見御供物として…ここに、来れたことは……っ幸福です。」      聡明様は自分の言葉を最後まで聞いてくれた。 「そのように感謝されるとは……。余は幸せじゃ。」  その言葉にまた涙が溢れた。   

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