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最終話 出航
遂に、ルーカスがイングランドに帰国する日が来てしまった。ルーカスは前の晩に俺の家に泊まりに来たのでそのまま二人でルーカス達の貨物船が停まっている港へと向かう。手を繋いで歩いている間、俺達は無言だった。ただただお互いの手の体温を感じながら歩く。
『ルーカス、お帰り』
『父さん』
船の前に、ルーカスよりも体格の良い、実年齢よりも遥かに若そうな外国人がルーカスを呼んだ。多分この人がルーカスの父親だ。あまり似ていないがルーカスと同じ、優しそうで意志の強そうな瞳をしている。
『そろそろ出発するよ。準備はできてるだろう?』
『大丈夫! あっ、ちょっと待って』
ルーカスは俺の手を引っ張って父親らしき人のところへと連れられた。
『この人がアイリス。今回は一緒に帰れなかったけど、俺の大事な人』
ルーカスが俺を指して何かを言っている。父親らしき人はじっと俺を見て笑顔を向けた。笑った顔は少しルーカスと似ている。
「初めまして、ルーカスの父のエリック・ウォーリックです。ルーカスから君の話を聞いているよ」
エリックさんは俺に握手を求めた。俺はその手を軽く握る。
「初めまして……アイリス、です。ルーカスにはいつも助けてもらっています。ルーカスより日本語上手なんですね」
「ハハハ、ルーカスより多く日本に来ているからね。それより、ルーカスに君を乗せてくれと必死に頼まれたから折角準備していたのに、日本に残るのかい?」
「すみません……」
俺は頭を下げた。
「それは残念だね。じゃあ攫ってしまおうか? 海を荒らす海賊のようにね」
エリックさんは俺の手首を掴んで片目を瞑った。びっくりして思わずうえっ?と変な声が出る。
「父さん、あんまりアイリスを困らせナイで。いつかちゃんと連れて来るから」
ルーカスが俺の反対の手を掴む。エリックさんはおかしそうにまた笑った。
「ハハハハハ、ごめんなさい。ルーカス、もう出るよ」
もう出航か。エリックさんはさっさと船に乗ってしまった。他の人達ももうきっと船に乗っていて、まだ陸に居るのは俺とルーカスだけだ。
「それじゃ、アイリス、またね」
「ああ……」
ルーカスは俺の両手を握る。俺はその手をきつく握り返した。
「もし、オレのコトよりももっとスキになった人ができたら、シアワセになっていいからね? でもオレのコト、忘れナイでね」
「馬鹿野郎、お前以上に誰が居るんだよ」
「ウン……ホントはアイリスのイチバンはオレがいい」
俺はルーカスを抱き締めた。驚いたルーカスの肩がビクッと跳ねる。
「わっ……」
「ルーカスが戻って来たとき、告白の返事するから。ちゃんと自分で考えて、俺の意志で決めるから」
俺がそう言うとルーカスはやっと俺の背に腕を回した。
「楽しみにシテル。必ず迎えに来るよ」
互いにぎゅっと抱き締め合い、そして離れた。
「もう行くよ。父さん達が待っテル」
「ああ……またな」
そのまま振り返る事なくルーカスは船に乗り込んだ。大きな音を立てて船がゆっくりと動き出す。俺は船が港から見えなくなるまでずっと眺め続けた。
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