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第2話
ミカの通う高校は、数年前までは男子校だったらしいが、少子化の影響で共学になったそうだ。
かなり歴史の深い学校で、良い先生が揃っていると評判がいい。柔道部はそうでもないが、ラグビー部が強豪で、スポーツでも有名な学校だった。
私学で学費が馬鹿高いということ以外は、良い学校だと思っていた。今日までは。
「お父さん!」
校門前で待っていたミカは、泣き腫らした真っ赤な目で恵一に抱きついてきた。
その頭を撫でて慰める。
「大丈夫だ。お父さんがついてる。職員室に行けばいいのか?」
「う、ううん。理事長室に」
「り、理事長?」
ずいぶん話が大きくなっている。
辛そうに大きな瞳から涙をこぼし、ミカは自分の足元を睨みつけた。
「先輩が……彼が、理事長の甥だったの。私、知らなくて。彼から告ってきたのに。私が悪いみたいにされて」
「な、なんだと!?じゃあ、自分の甥と付き合ってたからって、退学させようてしてるのか!?」
「うん……先輩は庇ってくれたけど、だめで。わ、私退学なんて……やだあ」
あまりの理不尽さに、体が震えた。
もうこんな学校やめてしまえと言いたいが、ミカはそれを望んでいない。
そっと抱きしめて、ミカの細い肩と背中を撫でた。
妻がいなくなった時に、どんなものからもこの小さな背中を守ると誓ったのだ。
「大丈夫。お父さんに任せておけ」
「ホント……?」
「本当だ。だからほら、授業始まってるんだろ。早く教室に行きなさい」
「うん、わかった」
涙を浮かべたままだけれど、ミカは少し安心したように笑みを浮かべてくれた。
そしてスカートの裾を翻し、パタパタと校舎に向かって走っていく。
白いコンクリートの箱のような建物に吸い込まれていくミカの背中を見送り、恵一は小さなため息を吐いた。一体、なぜミカがこんな目に遭わなければならないのか。ただ、淡い恋をしただけで。
恵一は一人娘の恋を見守ることにしたのに。甥っ子の恋愛に口を出すその理事長とやらに、ひどく腹が立っていた。
来客用のスリッパを借り、恵一は校舎に足を踏み入れる。玄関の靴箱付近にあった見取り図によれば、理事長実は三階だ。
階段を登っていると聞こえてきた教室から溢れる教師の声や、時折聞こえる生徒の笑い声に、懐かしさを覚える。ぎゅうと心臓が痛くなった。
ミカのために捨てたものが、ここにある。
理事長室の前に着けば、さすがに少し緊張した。軽くノックをすると、学校の引き戸独特の、ガシャガシャという音がする。
「入りなさい」
低い、男の声だ。
引き戸を開けて中に入れば、そこには品の良さそうな紳士が一人、大きめで立派なアンティークデスクに向かって何やら書類を書いていた。
恵一より少し年上だろうか。四十代半ばくらいに見える。くっきりとした顔立ちで、まるで映画俳優のような男前だった。それだけで、恵一は思わず怯んでしまう。
壁際に置かれたコレクションボードには、ずらりとトロフィーが並んでいる。すべて、運動部のものばかりだ。残念ながら、柔道部のトロフィーはひとつもない。
「ああ。佐久間ミカの父親か。遅かったな」
不遜な態度でそう言って、理事長は書類を避けて片付けた。
さっそく頭に血が上りかけるが、恵一はなんとか気を鎮める。ここで暴れても事態は好転しないのだ。
「はじめまして、佐久間です。……娘から退学を言い渡されたと聞きましたが」
「理事長の園田だ。この学校では、男女交際は禁止されている。残念ながらご息女は重大な校則違反を犯した。罰は受けてもらわなければならない」
「まさか。見つかり次第退学と、決まっているのですか?」
「いや、退学は悪質な場合だけだ」
「悪質?」
「君の娘は毎朝毎晩、ある男子生徒に自宅までの送迎をさせていた。交通費は彼に払わせている。これは、悪意のある搾取だ」
難癖を付けられているだけだ。完全に。
彼氏が彼女の送り迎えをすることの、何が悪意のある搾取だ。むしろ、後輩であるミカが、送り迎えの交通費を先輩である彼氏に払うほうが、違和感があるだろう。二人が幸せそうに寄り添って歩く姿を見るに、あの先輩だって望んでしたことのはずだ。
「なら、交通費は保障します。あとは二人には別れてもらえば、問題はないでしょう」
「いいや。風紀を乱したことには変わりはない」
「くだらない!こんなことで、退学なんて馬鹿げている。甥と付き合った女に対しての嫌がらせなのか?一体、どうしろというんだ!」
こらえきれず、語調が荒くなる。
すると、理事長はその彫りの深い顔に愉しげな笑みを浮かべた。
くいっと手招きをされて、しぶしぶ近づいていくと、理事長も席を立って恵一に迫ってきた。背が高い。恵一も決して小柄ではないが、拳二つ分、理事長の方が背が高かった。
「なら、父親のお前に責任を取って貰おうか」
「なに?」
ぐいっと、腕を掴まれ引き寄せられる。そして、股間を鷲掴みにされた。
思わず悲鳴をかみ殺す。全身にぞわぞわと鳥肌が立った。
「なっ!?なんのつもり、うっ、あ」
「子どもじゃないんだ。分かるだろう」
「まさか、ッ、ふざけるな、こんな真似を」
「ふざけてこんな事をするものか」
ミカを人質にされていなければ、もうぶん投げている。しかし自分がここで暴れたならば、ミカの肩身が狭くなると思うと、我慢するしかなかった。
「娘を退学にされたくないなら……私を満足させることだな」
恵一をデスクの上に押し倒し傲慢な笑みを浮かべた園田は、確かに経験豊富そうな鮮やかな手付きで、恵一を抵抗できなくしてしまう。
するりと下を脱がされてしまった。
妻が男と逃げてから、女性を避けてきた。
最後にセックスをしたのは、十年以上前の話だ。
久しぶりに感じた他人の体温のせいで、嫌なのに体は火照ってしまう。それが悔しかった。
長い指でスルスルとシャツを捲り上げられ、露出した乳首に舌が這う。
「止めろ、あ!だ、ダメ、そんなところっ……ああっ」
「ダメならなぜ勃っている?お前の乳首は、もっとして欲しそうだ」
「ひ、違うっ、あっ、あっ」
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。
初めて他人に触れられた突起から、まるで電気が流れるような刺激が走る。腰がピクピク跳ねて、勝手に息が荒くなった。
「やめ、理事、ちょ、くぅ」
「敏感だな」
「やめ、んっ、あっ」
舌がぬるるっと下がってゆき、ズボンを下着ごと脱がされる。足を閉じて拒もうとするが、内腿を舐められ力が抜けた拍子にぱかりと足を割られてしまった。
「や、やめろ、こんな、ゲスな真似はっ」
「やめて欲しいなら勃つものか。」
たしかに、情け無いことに恵一の性器は立ち上がってしまっていた。勃起自体、何年ぶりだろうか。
ずっと性的な快感から遠ざかっていた恵一には、園田の愛撫は強烈すぎたのだ。
「あ!あー!や、し、りは、あ!き、きたな、あ、待てっ、え!」
尻にまで舌が這い、逃げようと身を捩るが、がっしりと腰を掴まれていてビクともしない。
ぬるっぬるっぬるっ。
「あ、あ、あっ、ああっ、やああっ」
窄まりを舐めまわされ、擽ったさと背徳感に悲鳴をあげる。
さらに、舌は閉じた部分をこじ開けようとしてきた。細く尖らせた先端が、ぐりぐりと中に押し入ってくる。
中を舐められ、舌で中を探られて。
信じられないくらいの快楽だった。
恵一は混乱したままの園田の頭をつかんで引っ張る。だが、全くチカラが入らない。
ちゅぷっちゅぷっちゅぷっ……。粘着音が、理事長室に響き渡る。その音にも、鼓膜を犯されるようだった。
「い、やだ、あっ、あっ、やめ、あ、あっ」
肉厚な舌が中を犯し、高い鼻が会陰部を押して擦る。ねちっこい口淫に、恵一の性器はビクビクと跳ねる。そこにも長い指が絡み、するすると上下に撫でられた。
「あー!あっ!ぁあー!い、やあや、あ、あ、あっ!くる、い、いやだああ!」
舌技に翻弄され甘く喘ぐしかなかった恵一は、焦れていた性器への愛撫に頭が真っ白になってしまった。
ググッと奥に舌を捻じ込まれた瞬間。ふとももで園田の頭を挟んで痙攣する。背中が勝手に反り、園田の手のひらの中で勢いよく射精してしまった。
「あ……あ…」
「ふう……どうだ。ずいぶん、感じていたな」
「は、……は、ひ、す、すご、かった……」
「さて、次は私が楽しませてもらうぞ」
今までの、女を抱いたり自慰で得られる快楽とは、全く違った。
ようやく舌を抜かれても、そこはまだジンジン疼いている。余韻に弛緩しきった体をピクピクさせるしかできない恵一を見下ろして、園田は笑った。
足を開かされ、その間に園田の腰が割って
入る。舌で蕩けさせられた穴に、ずっと熱くてずっと大きなものが押し当てられた。
黒々した、巨大な一物だ。使い込まれているのが丸わかりのそれは、反り返り太い血管が浮いている。
その下の睾丸も、とても大きい。
「や……やめろ、こんなっ、は、犯罪だぞ……」
「娘を退学にされたくないのだろう?それに……ここは物欲しげだが、本当にやめてもいいのか?」
「ひっ、この、変態、クソ野郎」
「嫌なら抵抗しろ。できるものならな」
揶揄うように言う園田に、恵一は最後の足掻きとばかりに侮蔑の言葉を吐きかける。
ほかに抵抗なんて、できない。
下肢はとろけて力を失い、腿をとじようとしても、簡単に膝で割られてしまった。
本当に、犯される。
その恐怖と、体を支配する快楽に、恵一は心底から怯えて震えるしかなかった。
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