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39-この服、やっぱり似合いませんか?
ゴローくんと再び一緒に暮らし始めてそろそろ一週間。
ゴローくんの羞恥心は日々増えたり減ったり。
その具合を見極めつつも、オレはイチャイチャできる幸せを噛みしめていた。
「ゴローくん、オレのこと好き?」
夜の居間での突然の質問に、ゴローくんが男らしい爽やかな笑顔をくれた。
「はい。好きです」
そして、シッポの音がパタパタ。
ゴローくんは『好き』と言うと飼い主が喜ぶという体験をしたことがないせいか、オレのニヤけ顔を見るたび小さく感動してくれるのだ。
こういうのを世間では、破れ鍋にとじ蓋と言うんだろうか。
「ねえ、ゴローくん、これ……」
「何ですか?」
差し出した水色のショッパーバッグは、昼間、客のいない時を見計らい、少しの間ゴローくんに店番を任せて取りに行ったものだった。
「ゴローくんのだよ。開けてみて」
ゴローくんは受け取った紙袋を不思議そうに見ると、シールで閉じている部分を爪でカリカリとこすった。
「これがついてるから開きません」
「ああ、いいよ、いいよ、破っちゃって」
それを聞いてゴローくんが……。
バシャコン!
豪快な音を立てて紙袋を二つに引き裂くと、薄紙に包まれた中身が飛び上がった。
うーん、そう破るとは思わなかったな。
薄紙に包まれたモノを拾ったゴローくんが、中身に気付きカーッと真っ赤になる。
「コレ………」
「着て見せてよ」
「……ど、どうしてコレ」
「注文、してたんだろ?ほら……」
オレに促され、自分の部屋へと入って行ったゴローくんが手にしているのは、ヌイヤ・シンエンでオーダーした、あのノンアノ服だ。
ノンアノ服は可愛いデザインのものが多く、オスにワンピースを着せたりすることも珍しくない。
だけど、コレはシンプルかつワイルドな仕上がりだと、店主のシンエンさんが言っていた。
「着ました……」
恥ずかしそうに、木のドアから顔だけのぞかせる。
「こっちに来て、見せてよ」
催促すると、羞恥に眉をしかめたゴローくんが恐る恐る部屋から出てきた。
「…………」
「…………」
ゴローくんのノンアノ姿は……オレが思っていたのとちょっと違った。
柔らかそうな黒いレザー風生地の上下。
生地だけですでにワイルドだ。
ボトムスはショートパンツではなく、ハーフパンツ。
黒だからシンプルに見えるけど、切り替えが凝っていて、裾には編み上げがあしらわれている。
腰の両サイドにはシッポカバーの飾りベルトが三列。シッポカバーからほんのちょっとシッポの先端が見えているのが可愛い。
しかし問題はハーネスシャツだ。
定番の首輪風のハイネックは、リードをつける金具が付いていてハードな印象。
ハーネスなのでハイネックから脇にかけて太いベルトが伸びている。
肩には金具やベルトがついていて、長袖が取り外せるようになっていた。
長袖なのは、ノンアノらしからぬしっかりと筋肉のついた腕を見せたくないという、ゴローくんの要望らしい。
胴の部分はコルセット風で、前面の編み上げの左右に飾りベルトが三本づつ。
とんでもなくハードな印象だ。
そして胸の部分は台形に肌が露出している。
それはハーネスとしては定番のクラシカルなデザインなんだけど。
やっぱり通常のノンアノより大きいから勝手が違ったんだろう……。
「どうですか?」
不安げな目でオレを見ているゴローくんに、どう言えばいいんだろう。
黒いソフトレザー風のハーネスは想像以上にワイルドだけど、ゴローくんには似合っている。
けど、デコルテ部分のアキが大きすぎて、身動ぎするたびに愛らしい薄小豆色の乳首がチラ見え……。
控えめに言って、下半身が疼く仕上がり。
スチームパンク風?いや、コレはボンテージの域かもしれない。
こんなマニアックな性癖を想像させる格好で、このレトロで温かみのある我が家に立ってるというのが……。
ああ、なんだか異次元に迷い込んだような感覚に陥る。
「あ、あの、僕がノンアノ服なんて……やっぱり変ですか?」
色々思うところはあるけど、きっと言ったらゴローくんに引かれる。
感想は一言で……。
——すごくカッコ可愛いよ。
「今すぐ乳首にしゃぶりつきたい」
あ、声に出す部分、間違えた。
そして、ゴローくんが首まで赤くなり、フラリと揺れた。
「わっ!ゴローくん!また気分が悪くなったのか?」
「……今は夜だから、しゃ、しゃぶっても大丈夫です」
「そっか、じゃ、乳首が出てるのは恥ずかしくないの?」
「え……?この服、やっぱり似合いませんか?」
……そうか。
まだゴローくんの胸のシュガースポットにはノータッチだったから、羞恥の意識がここにまで及んでいないのか。
「に、似合ってる似合ってないで言えば、ものすごーーーく似合ってるよ。ただ似合いすぎて、オレがドキドキムラムラしちゃうから、コレを着て外に行ったりとかはやめたほうがいいかもね?」
「……そうですか。コレでお散歩はダメですか」
ゴローくんのつぶやきににハッとした。
そうか。ゴローくんも他のノンアノみたいにハーネスシャツにリードをつけてオレとお散歩をしてみたかったのか。
……こんなささやかすぎる夢くらい叶えられなくて、何が飼い主だ!
「あのね、服屋のシンエンさんがサービスで普段着っぽいシャツ風のハーネスも作ってくれたんだ。両方に合うレザー調リードチャームも買ってるから、ゴローくん、これからお散歩しよう!」
「行きたいけど無理です」
「え、どうして?」
ゴローくんが両手で股間をギュッと押さえた。
「あ、もしかして、パンツサイズが小さかった?」
「パンツはちょうどいいです。でも、ハクトさんが強く発情してるので、ココがズキズキして……」
「えっっ!そ、それは……ごめんね、ゴローくん」
欲情を抑えるなら、色気ダダ漏れすぎるゴローくんを見ないようにするしかない。
なのに、オレは……ああ、ごめんね、ゴローくん。見え隠れする胸のシュガースポットをチラ見するのを止められないよ。
「お散歩は無理なので、ハクトさんどうぞ乳首をしゃぶってください」
「えっっ!?」
あ、オレがしゃぶりたいって言っちゃったからか。
はあ、魅惑の乳首とオレの欲情との因果関係に気付かない、クールな微笑が眩しい。
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