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第6話

そうして二日後。 薬の所為なのか暴走した呪術師に寄る過剰な性行為の所為なのか。ようやく男は起き上がることができた。 スウェットの上下のままベッドで上半身を起こして、呪術師が剥いた仲間たちからのお見舞いの果物を頬ばる。 「え?俺の欠勤理由ってどうなってんの?」 「戦闘による疲労と軽い風邪と伝えてありやすよ、はい、オレンジ食いなせえ」 呪術師が剥いたオレンジを男の皿に乗せる。男はそれを咀嚼しながらホッとしたように呟いた。 「よかった……いい年してヤリ過ぎて動けねえとか洒落にならねえ」 「すまねえ、旦那」 ベッドサイドに座る呪術師のオレンジを剥く手が止まり、深刻そうに謝罪する。 「あ、いや、あれは必要な治療だったってのはわかってっから!先生を責めてるんじゃねえんだ」 「いえ、そうじゃなねえんです。俺は正直、一瞬だがあの時村を見捨てそうになりやした」 「は?!」 「旦那と村が同時に襲われるとしたら、そりゃ旦那を取る。それは今も変わっちゃいねえ。でも旦那はそれじゃ間違いなく怒るし悲しむでしょう?」 「あたりまえだ。先生といえど許さねえ」 そこで、ふ……、と呪術師が力なく微笑む。 「わかってやすよ。それに今回は勝算があった。うまく運べばかなり高い確率で両方を取り返せた。だから俺はああして両方を取った。でもな、もう一度同じような事があったら正直その時今回みてえに旦那を優先しねえ自信はねえよ」 「先生……」 「引きやしたか?でも旦那に譲れねえモンがあるように、俺もそこは譲れねえ。旦那がとっさに小せえものや弱い者を庇っちまうようにだ」 「俺は、弱くねえよ?」 「ああ、旦那は強い。けど俺が怖がりなんだ。旦那が居なくなっちまうのが堪らなく怖い。怖がりの俺のために、もうちっと自重してはくれねえか?」 呪術師のオレンジの瞳が神妙に男の目を覗き込んだ。端整な顔立ちが間近で訴えかけるのは圧力がある。 なにより、呪術師のめずらしく弱気な説得に男は堪らず目をそらした。 「わかった、わかったよ!今度から無茶な助け方も無謀も控える。約束する!」 両手を小さく揚げて白旗を揚げる。 「わかって貰えて嬉しいですぜ。そら、オレンジの追加だ」 「も、もう食えねえよ。っていうか、さっきから幾つオレンジ食ってるんだ俺は?!」 「媚薬成分の残滓を早く代謝させるのに果物は良いんですぜ。それに使い魔契約による術式バイパスが安定するまで体力はいくら付けても足らねえよ」 「契約まだ完成してねえの?」 「契約は完成してる。だが、旦那と俺との間につないだばかりの糸の一部がまだどうにも不安定なんでさ。こいつさえもっと早く安定してたら、みすみす触手なんざに旦那を捕まえられたりしてねえよ……」 呪術師の表情が怒りに染まり始めたので、男は慌てて果物籠からリンゴを差し出した。 「先生先生っ!俺今度はリンゴが良い、リンゴ食いたい!」 「お、食欲でてきやしたか?いい傾向だ」 呪術師の声が機嫌良くなり男が内心胸をなでおろす。 「そ、そうそう。やっぱり俺腹減ってたよ。なあ先生、リンゴはいつもみたいに剥いてくれるか?」 「俺のウサギさんリンゴが好きとは、旦那もかわいい事言ってくれるねえ。そうだ、ねえ、旦那、元気になったら旦那が新人の頃の話もよければ聞かせてくれねえかい?」 「俺が新人の頃の?」 「初めての報告書に三毛猫の落書きして初日からあだ名がミケに決まったとか……その後イメージを払拭しようと頑張って魔熊を退治するまでになったが魔熊殺しのミケになっただけだったとか……」 「なっ!?」 「任務中に採集した毒キノコに当たって寝込んだとか、掃除中総隊長にバケツの水ひっかぶせたとか」 男の顔色がみるみる赤くなり、呪術師はくすくす笑う。 「だ、誰がそれを……っ!あ!隊長だな?!隊長に聞いたんだな!?」 「仕事のついでに俺の知らねえ旦那の話、少しだけ聞かせて貰いやした」 「あーもう知らねえ。先生なんかもう知らねえ!!」 「そんな意地悪言わねえで。ねえ、旦那。もっと聞かせてくだせえよ、旦那の昔の話」 「畜生!知らねえよ!」 男はばふりと布団をかぶって向こうを向いてしまった。よほど恥ずかしかったのか首筋から耳まで赤い。 それを幸せそうに見下ろしながら、呪術師はくすくす笑いながら男に話をねだる。 「ねえ、旦那。ねえってば」 「やだ!!」 結局その日一日拗ねた男の機嫌を治すため、呪術師はずっと男の側で甘やかし続けたのだった。

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