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Please say no:好きな気持ちと認めたくない想い
「はあぁ、あと1週間で和馬と逢えるのだ。生和馬に逢ったらまずは、何を喋ったらいいだろう。今からもう、胸がドキドキしてしまって落ち着かないのだ」
ただ今、公務の最中である。真面目に互いの国のことについて、話し合っている最中だというのに、この有様は一体――
「アンディ、いい加減にしろ。数馬のことは頭の隅に置いておけ。今は貿易について――」
「無理なのだ! 追い出そうとしている傍から、目の前に浮かび上がってしまってな。あの顔を生で拝めると思うと、もう仕事なんて手につかないのだ」
(まったく、イライラするな)
「キサラギ! ローズティを用意してくれ。アンディの顔を見てるだけで、イライラしてしまう」
背もたれに体を預けながら、執事であるキサラギを呼びつけた。
「かしこまりました。では野生ローズヒップ専門店から取り寄せた物を、早速お淹れ致しましょう。アンドリュー王子も、紅茶はいかがですか?」
僕の横で恭しく聞くキサラギに、肩まで伸ばしたキレイな金髪を揺らして、優しく微笑んだアンディ。
その笑顔を見ただけで、胸の奥が甘く疼いた。
「キサラギが淹れる紅茶は絶品だから、是非とも飲みたいのだ。よろしく頼む」
「かしこまりました、少々お待ち下さい」
爽やかに一礼をし、去って行く後姿を見て、アンディが呟く。
「いいなぁ、キサラギ。格好いいし優しい上に気が利くし。うちのジャンと交換して欲しいのだ」
「ウェホンッ! アンドリュー様、ワガママばかり仰らないでください」
アンディの横にいた専属執事のジャンが、眉間にシワを寄せて睨んでいた。年配の執事らしい威厳のある態度で、アンディをきちんと律する。
「ジャン殿もご苦労が絶えませんね、こんなヤツのお目付け役なんて」
「まったくでございます。こちらの苦労を、少しは考えて戴きたいものです」
「エド、本当にお前は可愛くないのだ」
口を尖らせてながら、僕を睨むアンディ。どっちが可愛くないんだか……
そうこうしている内に、キサラギが紅茶セットをカートに載せて、颯爽と戻ってきた。執務室に漂うローズティの香りに、ほっと胸を撫で下ろす。
「いかがでございましょう?」
ティーカップに顔を寄せて、まずはその香りを楽しんでから、ゆっくりと紅茶を口にした。
「いつも飲んでいる物より、幾分香り高い。多少渋みを感じるが、茶葉の抽出時間を調節すれば、問題ないだろう」
「左様でございますか。それではもう一度、淹れ直してまいります」
「淹れ直さなくていいぞ。これ、めちゃくちゃ美味しい。エドはワガママなのだ。キサラギが丹精込めて、淹れてくれたというのに、何だかんだ文句を言いおって」
ティーカップを下げようとしたキサラギの手を制し、僕に苦情を言ってくるアンディ。
「アンドリュー王子、有り難うございます。ですが私はいつでも最高のものを、エドワード様にご提供したいと考えております。貴方様にも是非とも、同じものを提供したいと思っておりますゆえ、申し訳ございませんが、お下げしてよろしいでしょうか?」
「分かった、ちょっと待っててくれ」
キサラギの手からティーカップを取り上げると、一気に紅茶を飲み干す。
「では最高に美味しい、お代わりを頼むぞ!」
「かしこまりました。有り難うございます」
アンディの心遣いに、自分の小ささが目に余る。どうして僕はコイツの前だと、素直になれないのだろうか。
「キサラギが淹れてくれた紅茶のお陰で、落ち着くことができたぞ。さっきは落ち着きなくて悪かったな。さて、貿易の話の続きをしようか」
気落ちしてる僕を見て、気を遣ったのだろう。アンディがさっさと、話を戻してきた。バカだなお前と罵倒してくれたほうが、気持ち的には楽だったのに――
アンディが好きだという想いを、どうしても認めたくなかった。絶望的な片想いだったから。
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