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Please say no:お揃いの懐中時計(オマケシナ)2

***  規則正しい寝息が、僕の肌を撫でる。目覚めたばかりだというのに、やけにそれが心地よくて。その雰囲気がもう一度眠りの世界へと、誘おうとしていた。気だるさも手伝ってはいるが、顔も身体も動かせない――逃がさないように抱え込んでいる、キサラギの腕が絡まっているせいだ。  顔にかかっている癖の強い黒髪が、ちょっとだけくすぐったいのに、避けることすら出来ないなんて。  だけど―― 「嬉しい束縛、だな」  キサラギの右頬に、自分の左頬を擦りつけた。  伝わってくる柔らかさや、温かみがとても嬉しい。ずっと傍にいられなかったからこそ、尚更なんだが。  動かせるのは、正直ここまで。無理にどこか動かそうと思えば、動かせることは出来る。だが首から下がその――ふたりとも裸なので恥ずかしくて容易に、動かすことが出来ないのだ。 「執務室からここまで、キサラギが運んでくれたんだろうけど、その後ひとりで、どうやって過ごしたのか」  散々僕を弄り倒したのに、キサラギ自身は何ひとつ、そのような行為をしてはいない。今にして思えばそれが何だか、寂しく思えてしまう。 「もっとツバキのことを、考えてあげなければいけなかったよな」  今回はすべてが初めてづくしで、それを受けるのに必死すぎた。キサラギが容赦なく、僕を責めたせいでもあるんだが―― 「いきなり、いっぺんにアレコレ、やり過ぎなんだよ……」  次、ヤったら、その次は――って、もうどれだけ引き出しがあるのかと、呆れてしまったくらい。 「大変申し訳ありませんでした、マイプリンス」  その声にぎょっとして、思わず身体が跳ねてしまった。済まなそうな表情を浮かべ、こちらを伺っている黒真珠の瞳が、微妙に揺れていた。 「エドワード様が思っていた以上にエロ……じゃなかった、求めてくださったので、つい頑張ってしまいまして」 「だだだって////、ツバキが感じることばかりしてくるから、その、応えなきゃと思ってだな!」  ……キサラギに、エロいヤツって思われちゃった―― 「ええ、だから嬉しかったですよ。エドワード様の感じているお姿を拝見できて、私も感じてしまいました」  ちゅっとこめかみに、キスを落とす。 「だけど僕ひとりだけ、あんなに乱れて、何か寂しかったんだけど」  本音をぽつりと漏らしてみたら、右手首を掴まれた。 「では今度はエドワード様が、私を乱してくれますか?」 「えっ――!?」  掴んだ右手首を、ゆっくり布団の中に入れ、キサラギの下半身部分に導いていく。僕の手がキサラギ自身を、乱すことが出来るのだろうか?  ちょっとだけ指先に、ソレが触れた瞬間、身体がカーッと熱くなった。何もしていないのに、キサラギってば、もう…… 「あ、あわわっ////」  触るのが躊躇われ、ぎゅっと拳を作ってしまった。 「ほんなごと、照れ屋しゃんやね、エドワード様は」  何故か博多弁で言うと、僕の右手をパッと解放してくれる。 「あーた様んじぇんぶが、可愛くて、しょんなかとよ」  耳元で甘く告げると、ぎゅっと身体を抱きしめてきた。キサラギの肌から伝わってくる熱が、更に僕をドキドキさせる。  ドキドキしているのに安心感もあって、嬉しくて首に腕をそっと回した。  ――もっとお前の傍にいたいんだ。 「ツバキ……」 「ゆっくりでいいですから。エドワード様が私のことを、全部求めて戴けるまで、待ちますから。だから――」  啄ばむようなキスを、何度もしてくれる。くすぐったくて、思わず肩をすくめてしまった。 「貴方様の愛を、私だけに戴けませんか?」  真剣な眼差しに、笑顔で答えてやる。 「僕に、Noと言わせたいのかツバキ」 「言わせないよう、私に夢中になって戴く為に、アレコレ手を尽くして差し上げましょうか」 「そんな、手の込んだものは不要だ。既にお前に、首ったけなのだから」  腕に力を入れてキサラギを引き寄せ、愛を注ぎ込んでやるべく、しっとりと唇を合わせた―― 「マイプリンス……」 「愛しているぞツバキ。僕の愛の全てを、お前にくれてやる」  かなり照れてしまったけど、しっかりと想いを言葉に乗せて伝えてみた。 「ゆっくり進めようかと計画しておりましたが、そのお言葉で、前言撤回させて戴きます。私は迷わず今すぐに、貴方様を奪いたい――」  掠れた声で熱く告げると、僕の身体のあちこちに椿の花を咲かせて、キサラギの想いを、痕として残し――初めてひとつになることで、お互いがひとつに溶け合った夜にもなった。  キサラギが……ツバキが傍にいれば、もう何も迷うことなどない――庭にある黒椿と水色の薔薇のように、寄り添って生きていく。  Happy End

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