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二人ぼっち

昔から、『母さん』というのはどんな生き物なのか、世間一般的に言われていることとイメージが一致しなくて頭を悩ませた。 優しいとか、温かいご飯を作るとか、学校用の手提げを作るとか…。俺の母さんはそういうモノとは遠くかけ離れていて、小学校5年生の頃にやっと『俺の家の親は普通じゃない』のだと自覚した。 だから別に親に特別な愛着なんてものはないし、家族の絆みたいなものを感じるのは唯一弟だけ。 お金のない家だったから、きっといつかは母さんからお金を集られる日が来るのだろうなと何となく考えていたけど、まさかそんな日が本当に来るとは…しかも違った形で俺の身に降りかかってくるとは想像もしてなかった。 その日は夕方から曇り空で天気が怪しかったから、バイト終わりによく行くファミレスで一休みするのは止めて真っ直ぐ家に帰った。 俺の住んでいる古めかしい木造の家は、今にも幽霊が化けて出てきそうなくらい雰囲気が良いとは言えない。 家先の小さなポストには今日も料金の催促状が乱暴に突っ込まれていた。それを引っ張り出して確認しながら門をくぐる。 (電気、ガス、携帯…。ガスはヤバイな。お風呂入れないと体が臭くなる) バイト代の残高を思い浮かべながら玄関を開けると、そこに見慣れない靴があって一瞬ガス代のことが頭から離れた。 茶色の大きい靴。男の人のものだ。 まさか母さんが男を連れ込んでるのかと耳をすませてみる。すると、リビングの方からこっちにやってくる足音が聞こえた。 身構えていたら、やがて背の高い男の人がのっそりと出てきた。黒髪で、耳のピアスが印象的な人だ。 「ああ、科戸さんとこの子供だね」 随分と響いてくる声に思わず体がびくりとしてしまった。 「そ、そうですけど…貴方は?」 ほんの少し震える声を抑えながら何とか尋ねることが出来た。 「君んところのお母さんに金貸してたんだけど、居ないんだよね。というか逃げた」 「…はい?逃げた?」 母さんが?今朝まではいつも通り居たのに? 「どういう事ですか?借金?そんな話は一度も…」 「ここで説明するのは面倒臭いなぁ。とりあえず君俺と来てくれる?」 優しいとはいえない触れ方で腕を取られ、マズい!と思い抵抗した。 「離して!いきなりそんなこと言われても無理!」 「連れて来いって言われてるんだよ」 「それが無理なんだって!これから弟も帰ってくるのに!」 「そういや兄弟いたね。分かった安心して、他の人に迎えに行かせるから」 「は!?千尋を知ってるの?」 「こっちは色々調べて来てるからね。弟くん、事務所に連れてくけど君は来なくていいの?」 「…そんな事、」 そう言われてしまっては抵抗出来なくなってしまう。ヤクザか何かだろうか、やり方が乱暴だ。 そんな人相手に強気に出ることも出来ず、渋々男の人に着いて車に乗った。

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