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車の助手席に乗せられてからしばらくは、どちらも口を開かなかった。俺は警戒心バリバリだったし、男の人は今にも降り出しそうな雨を懸念してばかりだった。今の俺にはそんな男の人をたまに盗み見るだけで精一杯。
改めて見ると、彼は良く整った顔をしていた。切れ長の目はわずかに下がっていて穏やかな感じがするし、鼻は高いし、何よりパーツの一つ一つが綺麗な作りをしている。俗に言う『イケメン』の類だ。
(芸能人にいそうな顔…。そんな人が金貸しやってるなんて)
世の中は分からないな、なんて他人事のような感想を抱いた頃、車は隣の街に入った。
金曜日ということもあり辺りは声と灯りが賑やかで、今の俺の状況とは正反対の雰囲気にため息が吐いて出た。その中を五分ほど走った頃だろうか、やっと気力が湧いてきて男の人に話しかけることが出来た。
「…あの、母さんはどれくらいお金借りてたんですか」
「利子合わせて一千万弱かな。本当に何も知らなかった?」
「知りませんでした。でも、そういう言い訳は通用しないんですよね、きっと」
「君は賢いね。その通りだよ。俺たちは相手の事情まで汲んであげるような優しさは持ち合わせてないから」
「…やっぱり、ヤクザなんですか?」
「まぁそうだね」
ああ、嫌な予感が的中してしまった。
俺たちこれからどうなるんだろう…。危ないことさせられる?いや、臓器売買とか?…考えただけで鳥肌が立つ。
弟の千尋だけでも何とかこの人たちと関わらないようにしたいけど、簡単にはいかなそうだ。
まさしく『お先真っ暗』な状態に泣いてしまいそうになるのを、ひたすら外の景色を見て誤魔化した。
数十分くらい経っただろうか、いつ間にか段々と人通りが少なくなってくると、車はとあるビルの駐車場に止まった。
どうやらこのビルがこの人たちの事務所らしい。
「怖がってるね。まぁまずは話さないと何も始まらないからさ」
良い笑顔を浮かべる男の人に少しイラッとしつつ、促されるままに建物の中に入った。
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