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「で、オニイチャン。今から結構重い話するけど、お前だけで大切なこと決めちゃっていいのかよ?」
事務所の奥の小さな個室。
書類が山積みになっている机を挟んで、『シノさん』がにやりと笑った。
千尋は、みんなのいる部屋で神田さんたちと楽しそうに話している。最初こそ不審そうな顔をされたけど、きっと兄の顔を立てようと思ったのだろう、特に口に出すことはなかった。
「大丈夫です。それで、話を聞きたいんですけど」
シノさんは1つため息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。
「確認からするが、お前ん家は貯金はあるのか」
「いえ…俺がバイトで貯めてたのが10万円くらいです」
「なら金を作ってもらうしかない訳だな。とりあえずその10万は返済に充ててあの家は売りに出す。それでも足りねぇからお前、体貸せ」
「…はい?」
家を売る?体?労働させられるってこと?それともやっぱり臓器売買的な意味なのだろうか。
そんな疑問が一気に駆け抜けた。
「お得意さんがそういう趣味があってなぁ、若い男捕まえるの中々苦労してたんだよ。あ、本番は無いぜ。精々服脱がされて舐め回されるくらいだな。それで高額な金ぽんっと出すんだからスゲェよ」
「舐め…、えっ」
そういう意味!?
ぞわりと体が震えた。知らない男の前で裸になれだなんて、想像してたのと全然違う!
「…ほ、他の方法は…?」
「ねぇな。つーか選り好みしてる場合か?お前はもう今年の学費納めてるらしいから無事卒業は出来るけど、あの弟くんは卒業前に学校辞めることになるんだぜ?これ受けるなら高校の学費くらい面倒見てやっても別に良いんだけど。しかも住む場所の保障つき。相手はそれくらいの太客なんだよ」
そう言われてしまうと、すごく魅力的な提案に聞こえる。
このご時世、それなりの学歴がないとこれから苦労することになる。せめて千尋にも高校卒業くらいはしてもらいたい。
借金している状態で最後まで学校に通わせてくれるのは、正直奇跡に近いかもしれない。
(俺が我慢すれば…)
高額だって言ってるし、すぐに返し終わるかもしれないじゃないか。それまでの辛抱だ。長い人生で考えればほんの一瞬。
「…千尋が卒業出来るように、本当に助けてくれるんですよね?」
「俺は嘘は言わない」
「わ、分かりました。ありがとうございます。その話受けます」
嬉しそうに目を細めるシノさんから顔を晒した。
…この場に千尋がいなくて本当に良かった。
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