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プロローグ

 20XX年。  同性婚が、法律的に認められた。 LGBTの運動が盛んになり、同性愛を認める風潮が急激に高まった、ということに加え、AIやロボット工学のめざましい進歩が同性婚が認められる背景になったことは、間違いがなかった。 産めよ増やせよと政府がいくらがなり立てたところで、少子化の流れは止まらない。 ならばとちからを注いだのは、働き手不足の現状の打破であった。   ひとが居ないならロボットで補えばいい。 その考えが功を奏して、様々な分野でAIを利用したオートメーション化が進み、外国からの受け入れをせずとも労働力を確保できるようになったのだった。 しかし、いくら法律が認めたところで、同性愛者に対する差別はなくなりはしない。 風紀の乱れを懸念して、同性カップル……特に男同士の夫夫の入居を拒む住宅も多く、新たな社会問題となっていた。 そこで、モデルケースとしてとある自治体が建てたのが、同性婚者専用の『団地』であった。 ゲイカップルは、性に開放的で享楽的だと認識されやすく、それ故に彼らが近所に住むことを嫌がる住人も居る。 それならばいっそのこと同じ境遇の者のみを一か所に集めてしまえば良かろうという安易な発想にプラスして、ごく一般的な住宅地の中にこの団地を建てることで、果たして本当に風紀に影響があるのか、数十年単位の追跡調査をするためのテストも兼ねている、というのが自治体の建前であった。   『団地』の住人は当然ながら一般的な男女の夫婦と何ら変わらない生活を送っている。 夫の帰りを待つ妻、妻の待つ家に帰る夫。 それはパートナーが男同士であっても当たり前の家庭風景だ。 しかし、一見すると幸せに満ち溢れた家庭でも覗いてみれば色んな事情があるものだ。 人は皆、秘密を抱えて生きていく生き物だ。 そして誘惑に弱い。 特に狭い世界に毎日閉じ込められていると、刺激の強いものを求めて、決して開けてはいけないパンドラの箱も開けてしまったりするのだ。 この話しは、そんな禁忌の箱を開けてしまった団地妻の話である。

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