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第1話
暗闇の中。
パソコンの液晶画面だけがぼんやりと浮かんでいる。
ヘッドフォンで耳を塞ぎ、その画面にかじりつくようにして観ていた純はカリカリと爪を噛んだ。
画面の中では二人の男が濃厚なキスを交わし、肌を弄りあい、身体をくねらせながらねっとりと絡み合っている。
二人とも荒い息を吐き、一心不乱に腰を振っていた。
動画には一切モザイク処理はなく、男たちの繋がっているいやらしい場所の細部までがしっかりと映っている。
純はギリギリと奥歯を噛みしめると口元を歪ませた。
そこに映っている男の一人は、純の夫である廣瀬京一 だった。
普通なら、京一が組み敷いている相手は妻である自分、廣瀬純 のはずだ。
しかし、彼が汗を迸らせ夢中になって抱いている相手は純ではなかった。
『かわいいよ、秋乃 …ここがいいんだろ?』
京一が熱っぽく囁きながら、相手の下腹部に自らの腰を擦り付けている。
秋乃と呼ばれた男は、切なげに眉をひそめると華奢な肩を震わせながらコクコクと頷いた。
純はその相手が誰だか知っている。
二年前、この部屋の隣の部屋に越してきた夫夫、笹塚家。
その嫁の方である笹塚秋乃だった。
挨拶に来た時も、終始夫の後ろに隠れて項垂れていた地味で冴えない印象の秋乃。
なぜその秋乃が自分の夫とセックスしているのか。
理由はすぐにわかった。
浮気だ。
妻が留守の間に夫が浮気をするなんてドラマなんかではよくある話だ。
しかし純はまさか自分の身にそんな事が降り懸かるなんて全く思ってもみなかった。
だって、純が実家に帰省する前まで夫の京一にはそんな素振りは全くなかった。
なんなら出かける直前までベッドで激しく濃厚に愛し合ってもいたからだ。
それなのに、たった二週間と少し、家を空けただけで夫の心は隣人の妻に奪われてしまった。
『秋乃…かわいい秋乃…』
夫がしきりに秋乃の名前を呼んでいる。
上擦った甘い蕩けるような声色で。
『あ…アァっ、京一さ、ん…っつ出して…今日も秋乃の中に…っいっぱい出してぇ』
切羽詰まっているのか秋乃が甘ったるい声で喘ぎながら京一に中出しを強請る。
今日も…今日もと言った。
その言葉で秋乃がこれまで何度も腹の中に京一の精子をぶちまけられている事がわかる。
純が何も知らない事をいいことに、この二人は何度こうやって交わって、動画まで撮って楽しんだのだろうか。
考えれば考えるほど憎くて仕方がない。
幸せだった純の結婚生活にいとも容易く入り込み、ヒビを入れた秋乃が憎い。
純は再び爪をカリカリと噛んだ。
すでに噛むほど爪はないが構わず歯を立てる。
どうにか復讐してやりたい。
どうにかして秋乃も同じ目にあわせてやりたい。
激しく腰を打ちつけ合いフィニッシュを迎える二人を恨めしく睨みつけながら、純はひたすら報復することだけを考えていた。
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