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第15話

「駄目だ、寝てろ」 ベッドから起き上がろうとした優紀を俺は押し止める。 「…でも、僕…帰らないと…」 「ふざけんな。せっかく、あそこから逃げてきたのに」 「…逃げてきたって…」 「俺が優紀を連れて、ここまで逃げてきたんだよ」 「…どうして!!」 「…どうしてって…あんな所に居たいとでも言うつもりか?ふざけんな」 「…もう、僕と眞司は関係ないんだから、余計な事をしないで」 ………余計な事。 (……余計な事、だと?) 俺が兄貴から優紀を助け出した事を余計な事だと言うのか…? …優紀はあんな兄貴の元に帰りたいと、そう言うつもりか…? ―それ以前に…。 (優紀が、俺に従わないなんて…) 初めての事だった。 優紀と初めて出会ってから別れるまで…優紀は俺に対して従順で、俺の言葉に逆らった事なんか一度もない。 俺が服を脱げと言ったら、その場で服を脱ぎ、足を拓けと言えば、誰の前でも足を開き、そこから動くなと言えば、ずーっとその場に立っている。 そんなヤツだった。 それが…。 俺がここに居ろと言っているのに、帰ると言う。 それも……兄貴の元へ。 オマケに俺があの場所から連れ出した事を、余計な事とまで言った。 身体だけじゃなく、心まで兄貴のモノになってしまったのか…。 (…許さない) ―収まっていたはずの黒いマグマが、再び俺の中で暴れ始めた―。

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