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Prologue‐月島 遊人
「――俺、転校すっから。明日。もう遊人 とは会えねぇな」
なるだけ早口で。ぶっきらぼうに俺は遊人へ言った。
視線なんか合わせない。
だって単なる世間話だと思ってくれりゃいいからさ。
だから俺はあいつの学ランの裾ばっか見てた。
いつだったか俺が脇腹に蹴りいれた足跡がまだ残ってて、それが少し笑えた。
何やってんだよ、クリーニング出せよ。
つか、拭けよ。
そう言おうとして、笑いながら顔を上げた俺は――
固まった。
浮かべた笑顔もどん引き。俺は真っ白。
あいつが――遊人が、ものすげぇ淋しそうな顔してたから。
細い眉を八の字にして。ビー玉みたいな灰色の瞳を細めて。薄い唇をぎゅっと結んで。
じっと、俺を、見てた。
けど、それはまぼろし。
「……そっか。遠いとこ行くの? もう今までみたいに遊べないね」
いつもの軽いノリでそう言った遊人は、やっぱりいつものようにへらりと笑う。
それこそホントに、世間話のように。
遊人の柔らかい猫っ毛が、夏の匂いを含ませた風に遊ばれた。
……あれ?
なんだか俺は、傷ついてねぇか?
て、何思ってんだ、俺。これは世間話だろ?
軽く流してくれりゃいいんだろ?
そう、だったはずなのに。
さっきの、淋しそうな遊人のまぼろしが離れない。
あ――――……胃が痛ぇ……。
ちょうど胸の辺りを、俺はぎゅうぎゅう押さえる。
胃って……ここだっけ……?
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