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前夜 Ⅶ

 白い羽に少し砂がついてる折り鶴を、遊人に見える位置まで掲げる。  そしたら遊人、ぱっと顔をほころばせて、 「あ、そうそうそれ! いつの間に翼のとこに飛んでったんだろう」 「飛んでなんかいねぇよ。砂まみれで落ちてたぞ」  俺が拾わなきゃきっとゴミ扱いされてたに違いない。良かったな、鶴。  憮然とする俺のことなんか気にもしないで、遊人はくしゃっと笑った。  俺の指につままれたままの白い鶴を指差すと、 「それ、翼にあげるよ」 「え?」  何を? コレを?  仕方がないなぁ、とでも言いたそうに苦笑する遊人。  普段見ないその苦笑いは、なんだかずっと大人びてて、俺は理由もなく恥ずかしくなった。  遊人はぽんぽん、と俺の頭を優しく叩く。灰色の目を細めて、 「転校する親友に、俺なりの餞別」 「そ、そうか……って、わざわざそれだけのために俺ん家来たわけ!?」 「だって学校じゃ味気ないでしょ?」  お前はどんな味を求めてんだよ。  俺の手から折り鶴を取ると、たたまれたままだった鶴の羽を、遊人は器用な手つきで広げた。 「俺折り紙得意なんだよねー。ほら、お見舞いに持ってくような感じでさ」 「千羽鶴? つかお見舞いと転校じゃ全然違うじゃん」 「え、そう?」  要は気持ちじゃない? と遊人は柔らかく笑う。 「ところで翼はそろそろ帰んなくて平気?」 「え? あ、やばいかも」  そういや何も言わないで出てきたんだった。うわ、心配されてそう。 「だよね。じゃー帰ろっか」  そう言って、当たり前のように遊人は俺の手を握った。

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