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前夜 Ⅵ
「ん……なわけ、ねーだろッ!」
俺は思いっきり両手を握り締めてやった。
「いて、痛い痛い!」
「俺の手はどっちも俺のだっつの」
自慢じゃないが俺の方が握力は強いんだ。
ギブギブと呻く遊人の手を渾身の力で握って、
「遊人にあげるもんなんか持ってねぇよ」
ぱっ、と手を離す。
ようやく解放された遊人はちょっと涙目だった。
「泣いてんの?」
……そんなに俺の握力は凄まじかったか?
「違うよ。月光のせいでしょ。翼もきらきらしてるよ。でもオニだ」
痛い痛い、と遊人は両手をひらひらさせた。少しだけ、手の甲が赤い。
「悪い、やり過ぎた」
「あはっ。そこで謝っちゃうんだ、翼は」
「なんだよ、ふざけすぎたから謝ったんだろ。たまには真面目に受け取れ」
ふざけすぎって言うなら遊人の方がよっぽどふざけすぎだし。いつものことだけど。
あんまり見ない苦笑いを俺にして、遊人はポケットに手を入れた。
「翼が真面目すぎなんだよ。いいよ、ホントは全然痛くなかったから」
「うそ!」
「翼になら殴られたって痛くないよ」
あれ、俺ってそんなにひ弱だったっけ?
ふわっと笑う遊人を見てたら、ふと、こいつは女子にモテてそうだな、なんて思った。そんな話は聞いたことないけどさ。
なんとなく目を伏せた俺に、遊人の柔らかい声が降ってくる。
「そうだ、俺は翼にあげるもの、あったんだ」
……俺にあげるもの?
首をひねっていると、ごそごそとポケットをまさぐる気配がした。
「あれ? ない」
遊人の焦った声なんて珍しいな。いつものんきだから……ん?
今まで気付かなかったけど、足元に何か落ちてる。
白い……紙?
ちょっと砂をかぶっていたそれを俺は慎重に拾いあげた。
これ、鶴だ。折り紙の。
手のひらサイズの鶴をまじまじ眺めて、遊人に尋ねる。
「もしかして、コレ?」
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