12 / 14

前夜 Ⅴ

 夜の公園って不気味だよな、と俺はずっと思ってた。  だってなんか変態とかいそうで嫌じゃん。幽霊とか別に怖いわけじゃねーけど、普段は人で賑わってる場所が妙に静かだと背中ぞわぞわするカンジ。あれとおんなじ。  でも実際はおどろおどろしくもなく、幽霊っつーより妖精でも出てきそうなくらい、夜の公園はファンタジーだということを知る俺。  切れかかってんのかチカチカ光る街灯も、誰もいない砂場も、暗くて色がわからない鉄棒も。林の奥の暗がりだって。  全然怖くない。  不審者どころか小人とか住んでそう。  なんでだろ、今俺の脳内BGMが「おもちゃのマーチ」だから? 「ところでさ」  前を歩く遊人が話しかける。  片手をパーカーのポケットに、もう片方で俺の手をしっかり握ったまま、遊人はいつもみたいに気の抜ける声で尋いた。  遊人の髪は柔らかいから、少しの風でもすぐそよぐ。  あのふにゃふにゃの髪、いつか触ってみたいとか思ってる俺は変かな? それこそ猫みたいにうりゃっと撫でまわしてやりたい……。  そんな俺の願望をよそに、遊人は尋ねる。 「ロミジュリとかデートとかに反発はないの?」 「……はい?」  思わず聞き返した俺をちらっと振り返って、遊人はおかしそうに口許を緩めた。 「特に疑問に思わないんだ。ならいいや」 「え? え?」  俺は遊人の背中に向かってハテナを投げかける。  いや、そりゃ、少しは疑問に思うっつーかえーと、戸惑うけど引くほどじゃないし?  だいたい遊人がそういうキャラだから慣れ……んん? 違う?  まずい、わけわかんなくなってきた。  とりあえず言えるのは、他の奴ならぶっ飛ばすとこだけど、遊人だと何故か許せてしまう……これは……えっとー、何?  とたんに胃が痛くなって俺は手でそこを押さえた。  遊人を睨みつける。 「変なこと聞くから胃が痛くなったじゃん」  そしたら遊人はなんでか目を丸くして、 「胃?」 「最近よくお前のせいで痛くなんだよ」 「俺のせいで? 胃が?」  俺が押さえてる辺りをまじまじと見つめる遊人。  俺の目線に遊人のつむじが見える。ふわふわした猫っ毛。ちょうどいいからがしがししてやろうか。  でも残念なことに、俺の両手は今塞がっている。  片方は胃、片方は遊人に。  つむじが起き上がる。  目の前に、少し暗めの灰色。へらっ、と笑う。 「じゃあ、翼の両手はどっちも俺のものだね」  そう言って、ひとさらいは俺の両手を握った。

ともだちにシェアしよう!