11 / 14
前夜 Ⅳ
生温い風が濃い水の匂いを運んでくる。
そういや昼間は水じゃなくて花の匂いだったな。あれは何の花だったんだろう。
なんてどうでもいいことを俺はぼんやり思って、すぐ近くにある遊人の顔を見上げた。
遊人は軽く目を細めると、その長い腕をひょいっと振った。
「でもロミジュリじゃない方がいいよね。あれ悲劇だし。やっぱハッピーエンドでしょ」
「ロミジュリ言い出したのは遊人だろ……ってか、どこ連れてくんだよ!?」
俺の左手はしっかりと掴まれて、歩き始めた遊人にずるずる引きずられる。
痛くはないけど、なんとなく抗えない。俺より骨ばった手はひんやりしてて、気持ち良かった。
結局引っ張られるままに俺も足を踏み出すわけだけど、もしかして俺今まさに拉致られてる?
え、何この状況。
不安げな目で問う俺のテレパシーが通じたのか、遊人が肩ごしに振り返った。
街灯の白い明かりと三日月の黄色い明かりが、遊人の髪をかすかに透かす。
太陽に透かされてきらきらしてたときと違って、夜色の光は遊人をやけに大人っぽく浮かび上がらせた。
だからかな、どうも心がそわそわして落ち着かない。
普段あんなバカなのに。
いや今もバカだけど。
そんな俺の悩みなんてまるで無関係に、遊人はふわっ、と笑った。
「デートしよう」
ともだちにシェアしよう!