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ワンコイン[5]

祭りの屋台で売られている食べ物。どれもが魅力的に見えるのもまた、ひととき掛けられた魔法なのだろうか。 「結構買ったのに、全部なくなっちゃいましたね」 境内の端。運良く空いたベンチで烏龍茶をすする。もうすっかり日は落ちて漆黒の空。 「ソースの匂いって罪深いよね、ほんと」 くすりと笑った晄さんもまた、炭水化物のオンパレードをぺろりたいらげていた。どうして脂肪に変換されないのか、全くもって世の中は不公平である。 「…ん。飲み物買ってこようか?」 味付けの濃いものばかりで喉が乾いてしまう。空になったペットボトルを手渡してありがたく頷けば待っててと頭を撫でられた。 人混みに消えていく彼は頭ひとつ飛び抜けていて、スタイルの良さを改めて再認識する。と、同時に。 (…好きになる一方だ……) どうしよう。顔を覆ってため息をひとつ。 付き合ってからだいぶ経つというのに、自分にはまだ――― (自信が、ない) 彼の隣に立つ、自信が。 誰かに許可を得るものではないし、それは重々承知している。むしろその方がどれだけ楽か。与えられれば無条件に受け入れてしまえるのにと、どこまでも受動的な思考に嫌気が差す。 「ねえねえ、キミ」 「ひとり?連れは?」 ふと投げかけられる声に顔を上げて、瞬時に後悔した。明らかに軟派そうな見た目の男が2人。最近だと少なくなったその手の誘い――それはきっと、傍に晄さんが居てくれるから。 面倒だという感情をあえて表情に乗せても引くどころか、ますます彼らのにやつきは広がるばかり。まともに取り合うのも時間の無駄だと立ち上がった。晄さんには移動してから連絡すれば良いだろう。 「おっと、どこ行っちゃうのかな~?」 腕を掴まれて小さく息を呑む。ああもう、ひたすらに気持ちが悪い。 「……女の子と間違えてませんか」 不機嫌故に意識せずとも低い声が出る。眉を寄せた俺に返ってきたのは、 「分かってるよ。男の子だって」 愕然とした。意味を理解した途端、襲ってくるのは甚大な危機感。 今すぐに、逃げなければ…! 「っ、離せ――…」 「…何してるの?」 底冷えし切った声色。音源を向かなくても分かる。背中で受けただけのそれに堪らなく安心して、目頭がじんと熱くなった。

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