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ワンコイン[4]

車内で感じた妙な雰囲気。電車を降りる頃にはもういつもの晄さんに戻っていて。 気にはなったけれど。駅に居ても聞こえるお囃子の音を拾ってしまえば、もう頭の中はお祭りでいっぱいだった。 「人が多い…」 「はぐれないでね?」 「…子供じゃないんだから大丈夫です」 疑問形に含まれた少しのからかい。返答するも不満が言葉尻に滲んでしまう。むす、と唇を引き結ぶ俺の頭を撫でて彼が笑った。 「とりあえずひととおり見てみようか」 自然にするりと手を取られ、思わず斜め上の顔を見上げる。ん?と傾げられた相貌。提灯の照明に彩られたそれはあまりにも綺麗で。 このまま消えてしまいそうだ、なんて。浮世離れした容姿と背景の神社が相まってまるで異次元に迷い込んだかのよう。 黙りこくる俺を見て恥ずかしさだと勘違いしたのか、晄さんはこう続けた。 「ふふ、何のためにわざわざ隣町まで来たと思ってるの?」 大きいお祭りだから、というだけではない。勿論訪れる人が多ければ多いほど都合が良いけれど。近所ではあまりおおっぴらに接触を図ることも難しいから。 すこしだけ、非日常に浸っても許されるだろうか。ざわめく雑踏と鳥居を飾る装飾、色とりどりの屋台から漂う匂いと呼び込みの声。何より目の前の彼は浴衣姿で。 ややあってゆっくり手を動かす。緩やかな拘束を解いてしまうのか、と残念そうに下がる眉がぴくりと反応した。 次いで痛いほどの視線を感じる。それもそのはず。常ならば絶対にしない行為。 浮かれている、と認めよう。 重なったてのひら。恋人繋ぎへ形を変えたのは紛れもなく自分で。絡めた指に、きゅっと力を込めれば彼が微笑んだ。 「「さて」」 どこから回ろうか?

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