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ワンコイン[3]

あれからご婦人の家を後にし、駅へと向かった。混雑するホームで2人並んで電車を待つ。 「いい人でしたね」 穏やかな暮らしが目に見えるような。1人の相手と長年連れ添うのはどういう生活なんだろうか。 結婚して、子供が産まれて。孫が出来て。それからセカンドライフを過ごす。 それがきっと、当たり前なんだと。頭では分かっているけれど。 「…楓くん?」 考え込んでいる間に到着した電車から人が吐き出されていく。はい、と返事をして隣を見やれば。複雑な表情を浮かべる晄さん。 「?電車、乗らないんですか?」 「ああ、うん…乗ろうか」 発車ベル寸前で乗り込み、ドアが閉まる。車両の真ん中はきっとおしくらまんじゅう状態だろうから、端をキープできて幸いというべきか。背中のドアにもたれて、ほうと息をついた。 「……ねえ」 「はい?」 「なん―――ッ、」 問いかけの途中で電車が大きく揺れる。駅から出る時は揺れるんだよなあと呑気に考えてもいられない状況になってしまった。 (…ち、……近い…!) 振動で上げた顔、そのすぐ先に晄さんの瞳。半ばパニックになりそうな距離感は、いわゆる――… (え……ひ、肘ドン…?) 満員故に腕を伸ばすスペースもないのか、肘を扉に当てて支えているような状態。焦る俺を他所に、口元を緩めた彼。余裕ですと言わんばかりの態度が顔に書き記してある。 「さっき」 「へ…?」 「ホームで。変なこと考えてなかった?」 ぼそぼそと至近距離で交わされる会話。目を細めた彼の吐息が鼻先にかかって、色々な感情が綯い交ぜになる。 「へ、ん……って…」 言われてみればそうなのかもしれないし、違うのかもしれない。結局この気持ちをどう表せば良いか分からずに唇を噛んだ。 答えあぐねる俺をじっと見つめたあと、僅かに伏せられた瞼。相変わらず憎らしいほど長い睫毛が震えた。こんなに近くでも彼が何を思っているのか計り知れないことに焦燥感を覚える。 つい、と顎で示すのは反対側の扉。どうやら目的地の駅に着いたようだ。

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