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第2話 クラスでの噂
オメガと診断され、早三年。
学校ではβと偽りながらも問題なく通えている。
季節は、冬休み間近。
あと少しで卒業が迫っている中。
僕には、ある大きな悩みがあった。
「ユキ、なんか最近元気なくない? どうした?」
学校終わりの帰宅途中。そう声をかけるのは幼馴染の龍崎晴輝こと、ハル。
「な、なんでもないよ! 元気、元気~!」
ハルと並んで歩く帰り道。いつもみたいに笑って返したいのに、どこかぎこちなくなってしまったのは胸の中を占める悩みのせい。
その悩みというのも、最近クラスで話題になっているある”噂”。
『龍崎くんと隣のクラスの皇 アンリさんが付き合ってるのかもしれない』
初めにそんな噂を耳にした時、そんなまさかと信じられない気持ちでいたのだが。
今日の放課後、中庭で楽しそうに2人仲良く話す姿を見て、噂は本当なのかもしれないと思い至ってしまった。
(皇さんとは本当に恋人同士なの?)
(いつから付き合っていたの?)
聞きたい気持ちに蓋をして無理やり笑顔を貼り付ける。
「そう? ならいいんだけど、何かあったらちゃんと言えよ」
「うん、ありがとう」
「おう。てか今日の数学の宿題多くね? 今日徹夜覚悟だ」
「ふふっ、ハルって数学だけは苦手だよね」
数学が大の苦手なハルは、よくうちに来て勉強会と称し一緒に宿題をしたりしていた。
でも、最近はめっきりなくなった勉強会。一緒に遊ぶ頻度も日に日に少なくなって少し寂しいなと思うのは僕だけの秘密だ。
「そういえばユキ、最近は体調大丈夫か? また無理してないだろうな?」
そう聞くのはいつものハルの口癖のようなもの。
僕の両親も心配症だがハルはそれを上回るほどの心配症で、昔から体が弱い僕にハルはよく世話を焼いてくれていた。
「もう、ハルは心配症だなあ。大丈夫、無理もしてないよ」
「ユキとはもう長い付き合いだからな、俺たち友達だろ? 心配するのは当たり前」
満面スマイルで片目をウインクしたハルは、今をときめくアイドルにも引けを取らないぐらい眩しい。かっこ良すぎて心臓がもたないぐらい。
いつも僕のことを気にかけてくれるハルに心の底から嬉しさを感じる。だけど、嬉しい気持ちとは裏腹に”友達”その一言に僕の心がズキンと音を立てる。
『友達だろ』
そうハルが口にするたび何度も僕の心臓は切なく軋んだ音を立てて苦しいんだ。
(そうだよ。僕とハルは”友達”)
(それ以上でもそれ以下でもない)
「……ありがとう。やっぱりハルは優しいね」
「当たり前だろ!」
そう言って胸を張るハルは笑顔で、その笑顔をずっと隣で見ていたいと願う。
だけど、これからもずっとハルの傍に居たいと願っても、オメガという身体ではこの先それは叶わない。
まだ発情期が来ていないから一緒にいられるだけ。
もし僕がオメガだとハルに知られたら?
ハルは離れていってしまうだろうか。
もし僕が発情期を起こしたら?
ハルは僕を軽蔑するだろうか。
言えない秘密は膿のように溜まっていくだけで、恐怖と不安がいつも付き纏って離れない。
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