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第3話 好きな人

「――ユキ?」  考え込んで歩いていたせいで、気付くのが寸秒遅れてしまった。  ハルの心配そうな声と、かっこいい顔がすぐ間近に迫っていて慌てて距離を取る。 「は、ハル!? 驚かさないでよ」 「ははっ、ごめん。真剣な顔して歩いてたから」 「も、もう」  びっくりした。  近づいた距離に心臓がバクバクと鳴り止まない。  ハルは呑気に前を見て笑って、けれどすぐに真剣な顔をして僕へと振り返る。   「なあ、ユキ。昔の約束、覚えてる?」 「約束?」 「なにかあったら俺の名前を呼ぶこと、約束したろ?」 (そんなの、今でもずっと覚えてる) 「うん」 「一人で何でも抱え込むなよ」    やっぱり、ハルには敵わないな。  僕の不安をすぐ察知するところとか。   「……ありがと」    もう着いてしまった家の前。  いつも、ハルとの別れは名残惜しく感じてしまう。   「んじゃ、俺も帰るな。最近冷えるから腹出して寝るなよ」    ぽんぽんと頭に置かれた大きい手の感触とハルが去り際に言った言葉。    一瞬、全ての思考が停止して――    けれどすぐに「お腹出して寝るほど寝相悪くない!」なんてムキになって言い返したのに。  ハルはもう今来た道を歩いて帰っていて、背中を向けてすました態度で手をひらひらとさせているだけ。 (ああ、やっぱり……)  その後ろ姿が見えなくなるまで家の前に立ち尽くす。  ハルが振り返ることはなかったけど、きっとそれでよかった。  だって、こんな顔見られたら知られちゃう。  心臓がさっきまでとは違う心地よい高鳴りを響かせる。   (どうしようもないくらいに、ハルのこと――)   「――大好きだなあ」    まだ残るハルの温かな手のひらの感触を思い出しながら暮れていく空を見上げた。

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