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第1話

城崎希望(しろさきのぞみ)、高校三年生。 (何であいつじゃなきゃいけないのかな……) むっ、と唇を尖らせても、悔しいことに心からあいつが消えない。 本間祐希(ほんまゆうき)、26歳。この高校で教師をし始めて三年目の男だ。数学の教科担当教師だった一年の頃から、仄かな想いを寄せていた。三年になって、祐希が初めて担任を持ったのが、希望のクラス。普通科三クラスの中で、成績が中くらい、平均的な人間が集まるクラスだ。上昇志向の祐希が、成績のいい一組の担任になれなかったのは、哀れだと思ったが、希望は、心の中で喝采をあげた。祐希は、シニカルな笑みを浮かべながら、担任としての初めての挨拶をして、皆から拍手を送られた。人気があるのは知っていた。他のクラスメイトが、噂話をしていてのったりすることもあったが、希望のように恋しているやつもいた。だから、複雑だった。教師と生徒という壁があるから、誰かと付き合うなんてことはないと思いながらも、気が気ではない。祐希はまだ若いせいかとてもフレンドリーで、目上の教師のように、上から目線のところがなく、恋心関係なく人間として好んでいた。三年次から、希望が所属するバスケ部の顧問にもなり祐希と共にいられる時間が、多くなった。祐希は、数学の教科も担当していて、とても忙しそうだった。もちろん、学校以外で会えるはずもない。 苦手な数学を教えてもらいたくて、授業が終わった後休み時間に、祐希のいる職員室に行っても、皆が数学を教えてもらいたいだけだと思うから楽だった。本当は数学を教えてもらう方が口実だ。少しでも多くの時間を彼と過ごしたかった。 「先生……!」 職員室の扉を開けて、まっすぐ祐希のいるデスクを目指す。彼は、さわやかに微笑んで、僕を迎えた。 「希望、今日も来たのか」 「だって、どうしても理解できない部分があったからさ」 「わかったよ」 「教室か、数学室でもいいんだけど」 「それは駄目だ」 何故?とも聞き返すこともできず、普段通り数学でわからなかった部分の指導を受ける。 二人きりになりたいと匂わせたのだが、ガードは高かった。 部活のない曜日に、数学の教えを乞うようになったのは二年次からだ。 職員室や教室で教えてもらうのは無理で、他の教師陣もいる職員室で、 教えてもらっていた。 「聞いているのか、希望? 」 「は、はい……っ」 顔に見とれて、声に聞きほれていたなんて、とても言えない。 祐希の熱い眼差しが、心まで溶かすようで、胸が高鳴る。 教室で授業受けているときより意識してしまうのは、何故だろう。 下の名前で呼ばれるのは、希望だけではなく祐希はクラスメイト 全員を下の名前で呼んでいる。別に深い意味はない。

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