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第3話

「君はシャワーしたんだろ? 自分だけいい匂いさせて、俺だけ臭いなんて、ずるいよ!」 「なんで? 俺、樹里の匂い、好きなのにさー」  祥平が樹里の首筋に鼻を寄せた。 「やめてって。まじで汗臭いんだってば」 「あー、樹里の匂い。これだけで俺、ほら」  祥平が樹里の手を、自分の股間にあてがった。  固くなった部位は、祥平の興奮を表している。うれしくないはずがない。だけど樹里は素直になれない。 「……ちがうでしょ。さっきから硬かったし」 「あらら。ばれてた?」  さっきからこれみよがしに腰を押し付けてきたのは、どこのどいつだ。 「でも、ほら、樹里だって、コーフンしたんじゃん?」  今度は祥平が樹里の股間をいやらしい手付きで撫でてきた。 「だから! 君がそうやって!」    「はいはい。ごめんね。俺が悪かった。機嫌直して、樹里、ね?」  からかわれているのに、うれしいなんて、自分の質が悪すぎて呆れる。  祥平が樹里を溺愛してくれてるのはよく分かってる。  でもふと不安に襲われるのだ。  愛されれば愛されるほど、万が一たもとを分かつ時が来たことを考えてしまい、怖くなる。  樹里は祥平以外を好きになるなんて考えられない。  でも祥平はどうだろうか。  今はこんなに愛してくれていても、いつか樹里を嫌いになる時がくるかもしれない。 「どうしたの? 不安そうな顔して。そんな顔もかわいいけどさ」  妄想にふけっている間も、祥平は樹里の顔や首筋にキスを落とし、いつのまにかTシャツの中に手を入れて、肌を撫で回していた。 「……ううん。風呂、入りたいなって」  別れの予感に襲われていたなんて、口が裂けても言えない。言ったら最後、お仕置きという名の快楽攻めが待っている。 「しょうがないなあ。入っておいで」  甘やかし大魔王は、樹里が風呂に入ることをようやく許してくれた。 「セックスして疲れ果てた樹里って、めっちゃかわいい。ねえ、今日さぼって、また続きしない?」 「……もう、ほんとに、ごめんなさい。起きるから許して」 「ちょっと、脅したわけじゃないって。本気なんだけど」 「いや、本気のほうが困るって」  のしかかってきた祥平の頬を、樹里は手のひらで思い切り押し返した。彼の端正な顔がぐにゃりと歪んで、でれでれとだらしなく崩れていた。巷の女の子に、超絶爽やかイケメンと騒がれる美形は見る影もない。  でもそんな祥平を知っているのは樹里だけだと思うと、愛おしさが増すばかりだ。 「昨日散々したのに、朝からよく盛れるねえ」 「仕方ないよ。かわいくて色っぽい樹里が悪いんだし?」  祥平は口が達者で、口下手の樹里には到底太刀打ちできない。ああ言えばこういうには黙っているのが一番の対抗策だ。 「樹里!」  起き上がったところを、正面からいきなりだきしめられて。ぐえっとカエルを締め上げたような声が出てしまった。 「な、なに?」 「樹里ばっかり責めてごめん。樹里はちっとも悪くないよ。悪いのは樹里の色気に負けた俺だから。いくら樹里を好きすぎて、いつもエッチしたいって思って、樹里を何回もイカせて、泣きながら、もう止めてって言わせるのが好きだとしても、二度と気絶させるまで抱き潰したりしないから、許してほしい」 「……ちょっと、祥平。それ、わざと言ってるだろ?」 「えへへ、ばれた?」 「もう……」  綺麗な顔でいたずらっ子みたいな表情をされると、それだけで全て許したくなる。結局は惚れすぎたほうが負けなのだ。  神様。どうか自分を祥平の側に居させてください。  そしてこんな何気ない毎日が、どうかずっと続きますように。

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