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第1話
久しぶりに審神者が姿を現したと聞いたので、挨拶に行くと、彼は戸惑ったような笑みを浮かべた。
「えぇと、君は……」
遠慮がちに言葉を詰まらせるが、その先にある言葉が『誰だ?』と続くのは、小狐丸にも分かった。
頭を下げたまま、己の名を名乗る。
「小狐丸です」
「ああ、そうだった」
名乗るのはこれで三度目だ。
審神者の彼は多忙らしく、滅多に現れない上、会う度にまるで初めて合うような反応をされる。
傷つかないと言ったら嘘になるが、人の良さそうな彼の笑顔を見ると責める気にもなれない。
案の定、彼はバツの悪い顔で頭を掻いていた。
「悪いね、まだ慣れないもので…」
「いえ」
僅かな沈黙が主との間に落ちた。
今度こそは名前を覚えてもらおうと、色々と話題を用意していたのに、いざ会うと緊張してぎこちなくなってしまう。
ふと、不慣れな彼に助言しようと思い、顔を上げると、彼の視線は小狐丸の頭上にあった。
それが背後を歩く加州清光を追ったものだと気付いたのは、審神者が口を開いたあとだ。
「清光、ちょうど良かった。これはなんだったかな?」
審神者が指をさしたのはちょうど小狐丸が助言しようとした内容だった。
耳を下げた小狐丸とは、対照的に軽快な足音が背後から近づいてくる。
「えー、また? しょうがないな」
「はは、すまない」
また彼は申し訳なさそうに笑っている。
清光は口を尖らせながらも満更でもない様子で、丁寧に教えはじめた。
審神者が最も信頼しているのは初期刀である清光だ。彼が唯一名前を呼ぶ刀である。
話が長引きそうな気配を感じ、小狐丸は一礼して部屋を出ようと立ち上がった。
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