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第9話
「でも、そんなん上手くいきっこないじゃん?子供のためにとかって一緒にいてもらってもやだし、俺のことそんな義理で一緒にいるて思ってもらいたくもないしね。お互いの意思で、そうなりたかったから」
比良木がじっと見つめると、大杉はちょっと照れたように髪をかきあげた。
それから少し考えたように、比良木の手を取った。
比良木はそれをきょとんと眺める。
「あのね、もうちょっとしてから言おうと思ってたんだけど」
「うん、なに」
「俺と番前提で付き合ってください」
「……」
比良木がきょとんと大杉を見つめる。
その様子に大杉はふっと不安げに眉を寄せた。
「あれ、だめだった?」
妊娠したかったみたいだからいける、と思って言ったのだが。
勘違いだったか?
そんな不安がよぎった時、比良木の目からぶわっと涙が溢れ出してきた。
「うわっ」
驚いたのと、慌てたので、大杉は一瞬比良木の手を放し体を引いた。
それから慌ててハンカチを取り出して比良木の目を拭った。
「な、なんて泣き方すんだよ、びっくりするじゃん」
「…だって…」
ぐすぐすとしゃくりあげる。
「ごめん、そんなに嫌がるとは…」
「嫌がってない!嬉しいんだよ」
また勢いをつけて、涙が溢れ出した。
「なら、そんなに泣かないでよ。笑って?ね?」
「いいの?俺で?俺年上だし、こんなだし、結構おっさんだよ?」
言い方がおかしくて思わず吹き出した。
「大丈夫、知ってるから。それに番になるのはもう少し先だからね?もっとお互いに信頼関係を築いて…」
「うん」
比良木は大きく頷いて、不意に立ち上がると大杉の方へ歩み寄ってきて勢いよく抱きついた。
「お願いします」
「こちらこそ」
ぎゅっと抱きしめ返しながら、ふと大杉は気付いた。
「…発情期、終わったんじゃなかった?…」
大杉にそう言われ、比良木がびくっと跳ねた。
そしてまた抱きつく力を強める。
「なんで、Ωの匂いが…」
「…遼に、興奮したから…」
「そんなことも、あるの?」
「…お、俺も、知らなかったんだもん。でも、その」
「興奮してんの?」
覗き見た比良木の横顔は真っ赤。
「…してる…」
「どれくらい?」
しばらく返事がこない。
その代わり、ちゅっと口付けをされた。
「…すぐ、したいぐらい?…」
なぜか答えが疑問系。
その様子が可愛くて、堪らなくて、大杉は比良木の腰を掴んで自分の膝に乗せた。
激しく重ねた唇から水音を立てて、剥ぎ取るように比良木のシャツのボタンを外す。
比良木も震える指先で大杉のボタンを外し始めた。
どちらからともなく角度を変え、深く重ねて舌を絡め合う。
手はお互いの素肌を弄る。
するりと比良木の脇腹を大杉が撫で降りて、スラックスに手をかけると、比良木が大杉を押した。
「なに?」
これからなのに、そういう訴えを込めて比良木を見上げると、比良木はもう目を潤ませていて準備万端に見えた。それでも何か焦っているようで、必死にテーブルの上に手を伸ばした。
「おれの、スマホ」
「え」
比良木の手の先、もうちょっとで届きそうなところにある自分のスマホを取ろうと必死に手を伸ばし、それでも届かなくて、ちょっと身を乗り出した。
何をする気かわからないが、自分はやめるつもりはない、という気持ちも込めて比良木のベルトを外し、チャックを下ろす。
「はあ、あ、ん」
比良木も抵抗をしない。
下着の中に手を差し込むと、ぬるっと濡れた。
やはり準備はできているようだが。
手に取ったスマホを震える手で操作する。
それにも構わずスラックスを脱がそうとすると、腰を上げた。
足を抜くのも手伝ってくる。
「なにしてんの?」
「あ、メ、ール、スガに」
「なんで」
現れた小ぶりな臀部をぎゅっと掴むと、比良木はびくんと跳ねる。
「ああ、あ、時間、あん、潰してきて、ってメー、ル」
なるほど。
大杉は納得して、比良木の肩口にキスを落とした。
「ひゃ、ん、ちょ、打てない、って」
「早く」
そう言いながら臀部を割り入り、息づくそこに指で触れる。
「ああっ、あ、や、あ」
スマホを手にして、でも指が上手く文字を打てないらしく、もぞもぞと動く。
見かねた大杉が取り上げて代わりに文字を打つ。
「これでいい?」
打ち終わったメールを見せると、こくこく頷くので、送信してテーブルに放り投げた。
「今度はこっちね」
「?」
ポケットを弄ると、錠剤を取り出す。
「はい、口開けて」
比良木が言われるままに口を開けると、ぽいっと錠剤が投げ込まれた。
「はい、飲んで」
口を閉じられ、喉を上から下に撫でられる。
「なに?」
飲み込んでしまってから聞くと、大杉がにこっと笑う。
「明るい家族計画」
「………」
「ご利用は計画的に」
「ア◯ムじゃねえ」
つい吹き出してしまうと、比良木が肩に噛み付いた。
「って」
「ふざけてないで、挿れて!」
「はいはい」
比良木の腰を持ち上げてあてがうと、比良木が自分から腰を下ろしてきた。
ゆっくりと飲み込んでいく。
「あああああ」
飲み込みながら震えて、溜息のように喘ぐ。
「くうっ」
熱く蠢く内部は、大杉を待ち望んでいたようにきゅうきゅう締め付けた。
「ああん、ん、いい、あ」
飲み込んでしまうと、比良木がふと後ろに倒れそうなぐらいのけぞった。
「動くよ」
それを支えて、腰を揺する。
「あ、あ、あ、ああ」
大杉の律動に合わせて、比良木も腰を振る。
「ん、ん、ああ、ん、りょ、ん」
肩に掴まった指先にぐっと力が篭った。
「遼、りょう」
何度も呼びながら身をよじる。
「ん?」
「もっと、なか、こすってぇ」
「擦ってるよ。てか、上にいる聡史が動かなきゃ」
「動いてる、けど、足りない」
そう目を潤ませて言われると、堪らない。
大杉は自分の太ももと比良木の太ももの間に手を差し入れて持ち上げた。そして少し緩めると比良木の自重で深く落ちる。
「ああっ、ん、いい、もっと」
繰り返し比良木を持ち上げる。
「ほら、自分でも動いて」
大杉が言うと、きゅっとしがみついて、腰を上げ始めるが長く続かない。
「だ、め、ちか、らはいん、ない」
その様子に思わず笑みが漏れる。
「本当に発情期じゃないの」
「ちが、う、遼、り、ょう」
ねだるように呼ばれると、大杉も追い込まれて。
先ほどよりも強く比良木を揺すって、さらに下からも突き上げた。
「あああ、いい、遼、あた、てる」
「ん、俺もわかる」
比良木の奥に存在する器官。
大杉を待っている。
「き、て、遼」
「ん、いく」
「ああ、俺も」
比良木の中、大杉を待ち侘びる器官に向かって射精すれば、比良木がびくんと跳ねてそのまま弾けた。
残念ながら、その器官が望む結果にはならないが、いつかきっと…。
菅野が事務所に戻ってくると、寒い中、窓が全て開け放たれていた。
ビル風が舞い込み、菅野はぶるっと震えた。
そんな中で比良木は赤い顔でにひゃにひゃ笑いながらスマホを眺めている。
「さむっ!」
思わず口走った菅野にやっと気付いた比良木がへにゃと笑う。
「おかえり、ごめんな急に」
「…いいですけどね…」
そうしてまたスマホに視線を戻した。
「その様子だと、十分にイチャイチャできたみたいですね」
ちょっと冷やかしを含んで言ったのに、向けられた比良木の顔は蕩けきっていた。
「うん、ありがとな」
「どういたしまして。で、何をにやにや眺めてるんですか」
もういいだろうと、窓を全て閉めにかかりながら、菅野が聞いた。
「ん?内緒」
「…どうせ、大杉さん関連でしょ…」
「まあ、ね」
またにひゃあと笑う。
その様子を呆れ顔で眺める。
付き合いはじめの頃の自分たちを思わず振り返った。
「…俺ら、ここまでデレなかったと思うけどな…」
「ん~?なんか言った?」
「いいえ、なんでもありませんよ。ほら仕事して!」
「うん」
そう言いながらも比良木が目を離さないのは、先ほどお互いに終わった後膝の上で取った大杉の顔。
比良木も仕返しに取られたが、同じように大杉も眺めてるかもしれないと思うと頬が緩むのを止められない。
「おーい、比良木さーん!いい加減、乙女モードから出てきてよ、今日中に終わらせたい仕事があるんだからさあ」
菅野に大声で言われて、慌ててスマホを机に置いた。
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