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鈴木省吾の初恋②

「お前、本当に自転車運転下手だな。」 学校から徒歩20分、自転車だと5分のところにあるファミリーレストラン。 値段もお手ごろでうちの学校の生徒御用達。 もっと近いところにファーストフード店はあったが、とにかくお腹を満たしたい一心でここまでやってきた。 自転車で5分の道のりを15分かかった俺たち。原因は瀬戸口。 2ケツ運転が驚くほど下手だったのだ。学校を出るのに5分以上を要するものだからしびれを切らして運転を交代したのだ。 「だから、2ケツとか運転したことないっていったじゃん。」 「まさかあそこまでとはおもわなかった」 俺はステーキの定食。瀬戸口はパスタを頼んで一息ついた。パスタって女子じゃないんだから、と思うわけだが、恐らく遠慮して値段の安いパスタを選んだのだろう。 「久々だなー。ファミレスとか。」 瀬戸口は感慨深げにいう。 「久々なのかよ。ってか久々でもそんな感動することでもないよな。」 「まあな。」 ふはは、と瀬戸口が笑う。俺もつられて笑った。 「悪い。ちょっとトイレ。」 そう言って瀬戸口は席を立った。 俺は、店員にサイドメニューにあった、よくわからないサラダと肉を盛り合わせられたようなものを注文した。 好きかどうかはわからないが、瀬戸口へ。体格はお世辞にもいいとは言えないが、それでも食欲真っ盛りの男子だ。 パスタなんかじゃ足りるはずない。 俺だったら足りない。そう思っただけだ。 好きかどうかはわからないが、俺の金で買うんだ。 嫌いでも食え。 そんな、誰がなにを言っているわけでもないのに頭の中でそう、言い訳してしまう。 それぞれの食事がでた後、瀬戸口は一瞬目を見開いたあと「サンキュ」といった。 俺の考えた言い訳はすっと消えてしまった。 意外とお腹がすいていたらしい。俺も瀬戸口も無心でご飯を食べた。 食べた後動くのもめんどうで他愛もない話をした。 おがっちに押しつけられた雑用のこと、ユカリちゃんのこと、他のクラスメートのこと。 さして興味のある話も目新しい話もなかった。 いつものことだ。 … 「ありがとう、鈴木。おいしかったよ。しかも送ってまでもらえるなんて。」 「お前に任せたらいつ帰れるかわからん。」 ファミレスからの帰り、再び俺が運転することにした。同じ駅から通っているらしいので帰り道はほとんど一緒。俺は上り線、瀬戸口は下り線。どうしてかわからないが、上り線は15分に一度の本数で動いているが下り線は30分に一本。俺の待つ電車の方が早くに来た。 「じゃあ、また明日。」 「おう、また明日。」 そういって、別れた。 瀬戸口の姿が見えなくなるまで瀬戸口はずっと俺に手を振っていた。彼女じゃあるまいし何やっているんだか。 ちょっと笑って、空いている席に座った。 いつもは満員超過で座ることのできないこの電車も、下校時刻もとっくに過ぎてしまったせいか、ほとんど乗っていない。 ラッキーなのか、そうでもないのか。 食べ過ぎで襲ってくる睡魔に勝てないまま、ゆっくりと目を閉じた。 そのまま寝過ごして、最終の駅で車掌に起こされたことを考えれば、ラッキーどころの話ではなかったのだけれども。

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