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第1話
俺の好きな人は、決して告白できない相手だ。
告白できない相手を好きになる、恐らく同じ悩みを抱えている人は他にもいるだろう。もしかしたら案外身近にいるかもしれない。世界に、日本に、俺の周りに、その数が多かれ少なかれ、俺には関係ないし慰めにもならなかった。
人に言えないからひとりで抱え込まなければならない。相談できる人は俺にはいなかった。俺はいつまでこの気持ちを抱えて生きていくのだろう。いつになったら、おまえを好きな人から好きだった人に変えることができるのだろう。
最近こんなことばかり考えている俺はもう限界だったのかもしれない。
四月になり、俺は無事進級し大学三年生になった。単位も二年間でできる限り取得したので三年の授業はゼミと残り少ない必修科目さえ集中すれば進級は見込めるだろう。バイトと就活準備に集中できそうだった。
「隆、起きてるー?火曜は二限からだったよな?」
いつの間にか支度の手が止まっていた俺はその声にはっとした。
「起きてるよ。おまえも今日二限からだろ」
Tシャツを急いで着てドアを開けると、起きたばかりの幼なじみが立っていた。
「はいそうです。おなか減りました」
「……。はいはい、今作りますよ。おまえは早くその寝癖なんとかしろ」
「はーい」
この幼なじみである冬二はそれこそ生まれたときから一緒にいた。家が隣同士で、冬二の両親は共働きだったためよくウチに預けられていたから、本当の兄弟みたいな存在だった。
ーー冬二にとっては。
俺は物心ついたときからこの幼なじみが好きだった。同性なのに恋愛対象だった。気づいたときからこの感情は「ふつう」ではないと、誰にも言ってはいけないと、誰に教わるでもなく理解した。
高校三年のとき、俺が都内の大学に進学することを打ち明けると、冬二はすぐに県内の大学から俺の志望大学へと進路を変更した。
「なんだ、俺と離れるのが寂しいのか?」
なんてふざけて聞いたとき、冬二はうんそうだよ、と目に涙をためて答えた。馬鹿な俺は勘違いをした。なぜわざわざ都内の大学へ進学するのかという目的もその勘違いから忘れ、反対した担任の先生や急な進路変更に戸惑っていた冬二の両親を説得してしまったのだ。俺がそばにいるから、と。
あのときの馬鹿な俺は、あり得ない妄想に取り憑かれて冬二の気持ちを都合のいいように解釈した。
何のために都内の大学へ行くことを決め、冬二にギリギリまで黙っていたのか。もちろん、冬二から離れるためだった。このままではいつかボロを出し、きっとバレる。本人にも家族にも、みんなに。
そう恐れて冬二から離れ、徐々に距離を置いていこうと思っていたのに、自分と離れるのが寂しいと泣いている冬二を見て、まるで恋愛小説のような展開に期待したのだ。
そんな夢をみた俺は、そのまま受験を終え冬二と上京した。そしてすぐに夢は夢だと気づかされた。
冬二に彼女ができたのだ。写真でみた彼女は可愛らしく雰囲気が柔らかそうな人だった。一つ下で学部が一緒らしく、大学二年のときに同じ授業で仲良くなり、秋にはつきあうことになったのだ。
冬二は喜んでいた。俺も喜んだ……ふりをした。
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