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第2話
冷蔵庫から卵とソーセージを取り出す。食パンをトースターにセットし、コーヒーメーカーを用意する。ありきたりな朝食だが俺はこれさえ作ることができなかった。
高校生のときは米を研ぐことすらしなかったから料理なんてもってのほかだった。今ではそれなりのレシピなら難なく作れるようになったが、それも、冬二に食べさせたかったから。引っ越す前に母と姉の小百合から教わり、まずは冬二が好きな厚焼きたまごを必死に覚えた。
「いただきまあす!ん~、隆の厚焼きまじ絶妙だな」
「あのなあ、たまには朝ごはん作れよ」
「洗濯とゴミ出しはしてるじゃん。俺なんか料理したら材料がゴミになるだけだし」
「そうかい」
たまには作れなんて言っといて、美味しい美味しいと食べる冬二を見ると、次は何作ってやろうかな、この前テレビ見てて食べたいって言ってたあれを練習しようかな、とか考えている自分にうんざりする。
「あ、そういえばさ、今度香帆連れてきていい?」
「え?」
「香帆に紹介したいんだ。香帆も会いたがってたし。それにあいつ、料理からっきし駄目でさ、隆の料理を食べさせたいんだ。お手本!」
「紹介はいいけど、わざわざ俺の料理食べなくていいだろ、外食でいいじゃないか」
「え~、ウチに招待したいんだよ、だめ?」
「だめじゃないけど、家に連れてきたいならピザな」
「だからあ!ほら、材料も買ってくるからさ。ね?あいつグラタンとポテトサラダが好きなんだよ。ポテトサラダって、隆全然作らないけどいける?練習用にも材料買ってくるし!」
ーーは?何言ってんのおまえ。なんでおまえの彼女のために練習しなきゃいけないんだよ。それにポテトサラダはおまえが好きじゃないから作らないだけだ。
まだ承諾もしていないのに勝手に話を進める冬二に苛つきはじめた。会いたくない。紹介もされたくない。家にも上がらせたくない。料理なんて振る舞いたくない。なんなんだ。彼女の話を聞くだけでもつらいのに、こんな……。
きっとこれで招待したら、今後連れてくる頻度が多くなるかもしれない。こいつのことだ、俺とも交友関係を築かせて、三人仲良く過ごしたいとでも思っているのだろう。おまえは悪くない。だって俺は「幼なじみ」なんだから、なんにも悪いこと言ってない。
けど。
俺は、耐えられないかもしれない。今までなんとかやってこられたが、最近はやたらと感情が揺らぐ。余裕がなくなっている。冬二にバレるのも時間の問題だ。冬二に気持ち悪がられる前にルームシェアを解消して今のうちに距離を置いた方がいいのかもしれない。もうそばにいられなくなるが、積み重ねたものがなくなるくらいなら!
「きっと楽しいぞ。楽しみだな」
ああ、もう口角もあがらない。
「はじめまして、秋村香帆と申します。お邪魔します」
「幼なじみの相模隆斗です。よろしく」
あっという間に当日になり、冬二の彼女、香帆が来た。写真で受けた印象どおりの人だった。正直、冬二とタイプが違うような感じがしたが、どんな子を連れてきても俺はそう思ってしまうのだろう。
香帆が来たのはちょうど正午だったので早速昼食にすることになった。仕方なく彼女が好きだというグラタンとポテトサラダを作った。もちろん練習なんてしていない。するもんか。
冬二の彼女ってだけで心の中では歓迎できてはいないが、香帆は俺の手料理をすごく美味しいと褒めてくれたので、香帆自身は感じのいい子だという印象ができた。
食事中、冬二が「隆はかっこいいのにずっと彼女をつくらないんだ」と香帆に話し俺の話題にかわってしまった。
「そうなんですか!相模くんはどういう人が好みなんですか」
「俺?うーん、そうだな。……同い年で少し背の高い子で、癖っ毛の子は可愛いと思うよ。家事も苦手でかまわないかなあ。俺は世話を焼くタイプらしいんだ」
「私の友達で全部当てはまる子いないですね。家事に苦手はたくさんいるんですけど」
「はは、いたら紹介してね」
「はい!すぐ声かけますね!」
「えー、隆、背の高い子が好みなの?初めて知った!つーか、タイプの話なんて今まであんまりしなかったよな。もう何年一緒にいるんだってくらい二人でいるのになあ」
「いいなあ。幼なじみで親友って羨ましい。冬二ったらいつも相模さんの話ばっかりなんですよ。会ったことないのに相模さんとの思い出話をたくさん聞いてるから、なんか初めましてじゃない感じなんです!」
そうかよ。
疲れたな。もうこの子帰らないかな。もし帰りそうになかったら、緊急でバイトが入ったとでも嘘ついてここから離れたい。 俺はただただ時間が過ぎるのを待った。
幼なじみならもっと盛り上げるべきなのか。でもこの子に何の興味もない。でも、幼なじみならもっと二人のこと聞かなきゃいけないのに、困った、言葉が出ない。
「あ、私このあとバイトがあって。今日はこのへんで帰りますね」
五時ころ香帆が帰って行った。冬二は駅まで送ってくると言って二人で出ていった。
「はあ、終わった。はは、これはもう駄目だな」
ソファに沈み込むと自嘲気味に笑った。
もっとうまく対応できるかと思ったのにまるで駄目だった。思えば不自然な笑顔だったかもしれないと、不愉快な思いをさせてはいないだろうかと不安になる。
彼女を目の前にして、俺が女だったら堂々と告白できるのになんて考えて自分で悲しくなった。
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