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第3話

「ただいまー、今日はありがとな。香帆めっちゃ喜んでた、また来たいって」  冬二が駅から帰ってきた。 「おかえり。香帆ちゃん可愛い子だったな。写真より可愛いんじゃないか?それに優しいし、よかったな冬二」 「えへへ、結構ライバル多かったんだよね。サークルの奴らもあの子よくね?って言ってんの聞いたことあるし」 「そうか、よかったな」 「惚れんなよー!」  冬二は俺に彼女のことを褒められて上機嫌だった。 「隆も早く彼女できるといいなー。俺が女だったら絶対隆のこと好きになってるけどなあ。好きな人できたら相手もすぐ応えてくれるよ、お前なら」    一瞬頭が真っ白になった。今何て言った?「俺が女だったら隆のこと好きになってる」だって?  親友として突き通し、そばにいながらこいつの幸せを一緒に願おうと何度も誓った。今回だってちゃんと応援した。応援しなきゃいけないとわかっていたから。我慢してでも友達として近くにいられればと何度も自分に言い聞かせてきたのに。    なんで今そんなこと言うの。 「……それがさ、ずっと応えてくれなんだよね。気づいていないっていうのもあるけど、一回も俺を意識してくれないんだ」 「え!なに!隆好きな人いたんだ!え、誰?」 「あ、応えてくれないっていうのは語弊があるな。ずっとバレないように隠してたから」 「隠してた?誰?ずっとってことは、俺の知ってる人?教えてよ!」 「……」 ――打ち明けるな。 ――今まで隠してきたのを水の泡にする気か。 ――内緒だと言えばいい。 ――冬二を失うぞ!  心が訴えてくる。その通りだ。ここをやり過ごせと脳が命じている。でも、ああ、潮時ってこういうことを言うんだな。もう限界なんて超えてたんだ。 「……?おーい隆?」 ぐいっ!  冬二の腕を掴み強く引き寄せた。一瞬触れた唇の柔らかさは、何度も想像していたものとではまるで違うものだった。 「隆!?何……っ!」  冬二が抵抗して振り払おうとしたが、俺は押さえつけてもう一度口づけをした。 「ん!……っはあ!た、隆!!」 「冬二、俺はね、ずっとおまえと一緒にいたかったんだ。ずっとずっとふたりでいたかった」 「え?」 「ごめんな」 「えっと……ごめん。ちょ、ちょっと待って……待ってくれ今混乱してる」  そう言って冬二は手の甲で唇を拭った。 「ごめんな冬二。ほん、ほんとうに、ご……」  自分でも混乱し、色々ぐちゃぐちゃになって涙が溢れてきた。 「っ隆!謝んなくていい」  冬二はすかさず頬を伝った俺の涙を親指で拭い、テーブルからティッシュを持ってきた。 「ご、ごめん……冬二。き、気持ち、悪い思いさせて、ご、ごめん」 「いいから、ほら鼻水拭け」  俺の鼻にティッシュをあてる冬二は、いつもと違う雰囲気で、少し大人っぽく感じた。 「気持ち悪くなんてない。キ、キスはびっくりしたけど、気持ち悪くないよ。だから謝るな」  無理をしている。俺はそう思ったが身勝手な俺を受け入れてくれたことに安心した。そうだ。冬二は人の思いを汲めるやつだし露骨に相手が傷つく態度もとらない。臆病になりすぎて冬二が見えてなかった。  この瞬間、俺は救われた気がした。  冬二はしばらくして俺にこう言った。 「隆、おまえの気持ちは嬉しかった。同情とかじゃないぞ。純粋に嬉しい。ただな、俺は香帆が好きなんだ。だから、えーと、隆の気持ちは受け取れないんだけど、ありがとってことだ」 「うん、ありがとう。ほんとうにごめん」  言った瞬間、デコピンされた。 「だーかーらあ!謝るなって言ってんだろ!……はは、いつもと立場が逆だな」  ふっと冬二が笑った。こんなに大人びた表情してたっけ。 「小学校中学校高校、そして今も、告白され続けてきた隆が俺のこと想ってくれてたのは誰にも言わないけど大いに自慢するぞ」 「最近告白されたことおまえに話してない」 「あまい、情報なんて大学、特にサークルじゃ常に流れてくるんだぞ」 「へー」 「高橋が憎らしいって言ってた」 「なんで」 「先月文学部の笹畑さんに食事誘われたろ」 「笹畑?あー、あの子か。だから高橋のやつやたら話しかけてくるのか」  いつの間にか、いつもの会話に戻っている。 「さっきまでのシリアス感、どこいったんだろな」  冬二もそう思っていたみたいだ。 「俺とまだ友達でいてくれるか」 「は?当たり前じゃん。じじい同士になっても友達でいてやるわ」 「そうしたらほぼ生まれてから死ぬまでだな」  幼い頃からしまい込んで黒く濁っていた気持ちが、流れ出して解放されていく感覚を覚えた。 「冬二、考えてたんだけど、ルームシェアやめたいんだ」

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