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第4話
大学4年の秋、無事内定もとれてあとはゼミの卒論に集中するだけになり、あの日を境に冬二と俺は別々の部屋に越すことにした。
俺が先に引っ越し先をみつけ手配も済ませた頃、俺はひとりで数日実家に帰った。突然帰ってきた息子に文句を言いながら俺の好きなものを作ってくれた母親。あれどうしたの、とケーキを買ってきた父親。そして、夜中ドライブに誘ってきた姉。
「隆、ごめんね。私気づいてたの、冬二くんのこと」
海の近くで車を駐め、缶コーヒーを買ってきた姉はそう呟いた。
「今日も急に帰ってきたし、様子が違ったから、何かあったのかなって思って」
「さゆ姉、いつから?」
「あんたが小学生のときから」
「嘘」
「ほんと。あのね、私にとっては冬二も弟みたいなものなの。昔は二人して私が面倒みてたのよ。だからかな、二人を見てて隆はそうなのかなって何となく思ってた」
「どう思った?」
「冬二お馬鹿だから気づかなさそうって思った」
「なんだそれ」
じんわり缶コーヒーの温かさが手に広がっていることに気がつき、俺は緊張していたんだなと軽くため息をついた。
「このまま秘密にし続けてそばにいるのが限界だったみたいで、勢いで冬二に言っちゃったんだ。でも、冬二はありがとうって」
「そう、隆も冬二も大人になったね。隆、ちゃんと言ってけじめつけて偉いよ。よく頑張った」
「うん」
姉はずっと俺を心配してくれていたんだ。たまに帰ってくる弟の変化に気づくなんて、すごい人だなと感心した。
かすかにポケットから振動がした。そういえば実家に帰る電車に乗ってから全然スマホを見てなかった。ロックを外すと、冬二やほかの友人から何件か連絡が入っていた。冬二のメッセージを確認すると、部屋を見つけたとあった。
「冬二、部屋見つけたって」
「そう、じゃあ姉ちゃんが二人の部屋を訪問しようかな」
「俺はいいけど」
「あ、言い忘れてた。ひとり暮らし資金少し出してあげるよ」
「え?いいよそんなの」
「いいからいいから。ご褒美だよ。隆だけね!」
「……、ありがと」
「ところで、隆の就職先は――」
家に帰って家族で食事を済ませた頃、また冬二から連絡がきた。
『いつ帰ってくる?』
『明後日の昼過ぎの電車に乗るつもり』
『夕飯食おうぜー!』
『どこにする?』
『俺のサークルのメンバー、二人呼んでいい?隆に会いたいって言ってるんだ』
『いいよ、けどなんで』
『さあ、前から言われてたんだけど、そろそろうっせーから悪いけどつきあってくれ。たぶん二人とも来れちゃうから』
『はいはい、新宿着く時間わかったら連絡する』
『おっけー。あとさ、忘れるといけないから言っとくけど、別々に暮らしてもたまに厚焼き差し入れして♡厚焼き以外も可♡♡』
ぽんっとおねだりしている猫のスタンプが押され、俺もため息ついている犬のスタンプを返した。
そうだ、冬二になにかお土産のお菓子買っていこう。いつも二人で帰省していたからなんか慣れないけどこれからはこれが普通になる。
正直全然吹っ切れないし、冬二が普通に接してくれるからこそ自分がぎくしゃくしてしまうこともある。
それでも、いつか落ち着いてあいつとほんとうの親友になれる日がくると漠然と感じていた。
了
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