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第12話

「オレも……オレも圭が好きだ。解消なんかしたくない。ずっと一緒にいたいよ」  寿史の手が圭の頬に触れる。  流れた涙を拭ってくれる指は変わらず優しい。 「うん……うん、番でいよう……ずっと一緒に」  抱き合って、涙を流しながら顔を寄せ合う。  寿史の目にも涙が溢れていて、圭はそれを寿史がやったように指の腹で拭った。  何度も身体を繋げて、そのたびに言い知れぬ余韻を感じてきたけれど、このお互いの指を濡らす涙の暖かさはその余韻に近い。  見つめ合って、微笑み合うと、自然と唇を重ねた。  幸せに満ちあふれた、愛おしいキスを。  真っ白な待合室に二人。そこは神聖な協会にも似た場所で。  そしてそれはまるで誓いの口付けのようだった。 「……あとね、報告があるんだ、とても大切な」 「なに?」  不安そうな顔をする寿史に、圭はそっとモノクロの写真を取り出して見せた。  寿史は大きく目を見開いて写真と圭を何度も見た。 「ホントに?」 「うん、ホントに。ギリギリだったけど」 「この場合、どうなるんだ? 解消の書類、書いちゃったんだけど……」  急に慌てふためく寿史が受け付けに出した書類を返してもらおうと右往左往する。 「わからない。支援システム側がどう判断するのか……。それでも俺、どんな結果でも寿史から離れたくないって思ったから、先にそれを伝えたくて……だから、その……」  もしも寿史が解消を強く望んだら一人で育てようと診察室を出たときに決めた、このお腹の中に宿った新しい命を。  モノクロの写真に写った、小さな小さな白い影を。 「たとえ解消になっても、オレには圭だけだ。解消しろと言われたら支援システムの契約を切ればいい。圭一人で育てるようなことはさせない」 「寿史……」  まさかこんなタイミングで宿ってくれるとは思わなかった。もう無理だと思っていた。それがこうしてここにいる。まだ何の自覚もないけれど、これからどんどん変化して子を産める身体になる。  一人では正直、不安だ。寿史がいてくれたら心強い。 「うん、一緒に」  まだ目立たないお腹に寿史の手が触れる。その手に自分の手を重ねると二つの温もりを抱いている気分になった。 「オレの願いが叶ったよ、圭。家族になろう。ずっと一緒に生きていこう」 「家族……うん……うん、家族になりたい」  暖かで穏やかで笑顔の絶えない、そんな家族に。  あなたとなら。  今日、二人は番を解消する。  そして新しい関係を築いていく。  彼と、彼の番と、そして芽生えた新しい命の三人で。  ――家族という名の関係を。

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