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第11話
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先に診察を終えていた寿史が待合室で待っていた。
圭が戻って来たのに気が付いて、読んでいた書類を椅子に置いて立ち上がる。
「圭、大丈夫か? 随分、時間がかかってたみたいだけど」
「うん、大丈夫。それより、寿史に聞いてほしいことがあるんだ」
駆け寄ってきた寿史が圭の肩に手をやった。圭はその手にそっと自分の手を重ねた。
「圭……?」
「寿史、もう次の番のこと、考えてるかもしれないけど……だけどやっぱり俺……」
上手く言葉が出てこない。どう言ったら寿史に自分の思いを全て伝えられるかわからない。
それでも伝えなければいけない。
もしかしたらこれが最後の会話になるかもしれないから。
「寿史と番を解消したくない」
寿史は驚いた顔で圭を見た。
まさかそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。
「だけど……決まったこと、なんだろう? 圭、子供欲しがってただろ? オレとだと……できないだろ……」
ずっと子供がほしかった。
自分と血の繋がった子供が。たった一人でいい。大切な存在が。
だけどそれは、自分の味方がほしかっただけだ。絶対に裏切らない存在が。
そんな考えでは授かるものも授からない。子供に依存して生きるようなことはしてはいけないのだ。
「オレも解消したくないよ……でも、オレじゃおまえを幸せにしてやれない……」
やはりこの人は優しい。自分のことよりも相手の幸せを考えてくれる。
この人となら、他になにもいらない。
そう思えるから、伝えたいのだ。心から大切なのだと。
「俺は寿史と一緒に暮らせて三年間、凄く幸せだったよ。子供がいなくても一緒にいたいって思えるくらい、寿史のことが好きなんだ。その気持ちだけで俺は十分、幸せなんだ」
涙が出た。悲しい涙ではない。愛しさが溢れて涙になって流れてくるのだ。
この思いをもっと早く寿史に伝えておけばよかった。そうすれば寿史にももっと幸せを与えられたのに。
三年間、ゆっくりと育んできた気持ち。相手を好きだという思い。愛しい存在。
「支援もなにもいらない。寿史さえいてくれたら何もいらない。だからお願い、解消するのをやめてほしい。寿史が好きだから……好きだから」
「圭……」
ぎゅっと、大きな腕で抱き締められて寿史の鼓動を感じる。
この温もりを感じて生きていけるのなら、それだけで。
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