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第10話

「はい、じゃあ内診しますよ」 「はい……」  涙声になっているのに気付かれなかったか心配だったが医師は何事もなかったように診察を始めた。 「定期検診もしっかり受けているみたいだから何の問題もないと思うけど、一応決まりだからね」 「はい」  この診察はきっと次のマッチングのためにしているのだろう。  この身体にはなんら問題などないという証明をするために。  感情だけがおいてけぼりになったまま、解消する準備だけが進んでいく。  このシステムの唯一の欠陥はそこに人間の心がないことだ。お互いの気持ちを優先して契約し番になるのに、離れる時は強制的に別れさせられる。  登録したときはそこまで考えていなかった。三年も一緒に暮らした相手と、番になった相手と、別れることがこんなにつらいとは。 「うーん……異常はないけど……ちょっとこの場合はどうなるのかな……」 「あの、なにか問題が……?」  今まで一度も異常なんてなかったのに、医師の意味ありげな言葉が気になった。 「うん、問題といえば問題かな……」  歯切れの悪い医師に不安を覚える。  まさか、もしかして今までの検診では出なかっただけで自分の身体に問題があって子供ができなかったのかも。  貴重な三年を――彼の三年を無駄にしたのは自分なのでは。 「とりあえず、内診は終わりね。準備できたら診察室に戻って」 「はい……」  自分のせいだったら寿史になんて言えばいいだろう。なんて謝れば。  許してなんてもらえない。三年もの時間を奪ったのだから。  力なく身支度を終えて診察室に戻ると、医師が難しい顔で待っていた。 「じゃぁ、これ一応、渡しとくね」  そう言って医師がそっと手渡したのは小さなモノクロ写真だった。

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