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第9話

 内診台に乗って足を広げるのは抵抗があった。腰の向こう側をカーテンで仕切って医師が内診をするのはこちら側からは見えなくなっている。  天井を見ながら、圭は初めて寿史に会った日のことを思い出した。  派手な顔付きではないけれど、人当たりのいい物腰の柔らかい印象を受けた。  お互い緊張していて、なかなか会話が弾まなかった。沈黙が続く中、それでも苦痛ではなかった。彼のまとっている空気が会話がなくても心地よくて、時折目が合うとはにかんでみせた。  どうしてマッチングシステムに登録したんですか?  そう質問すると寿史は困ったように笑って、少しずつ話してくれた。 「うちの両親もマッチングで番になって俺を産んだんです。とても仲の良い番で、籍も入れて正式な夫婦でした。だから大人になったら俺も登録するんだと当然のように思ってたんです」 「そうなんですね」 「はい。けれど中学の時に両親は事故に巻き込まれて亡くなりました。それ以来、親戚に引き取られて生きてきました。αだから何の苦労もなく引き取ってもらえたんです。きっとΩだったらそうはいかなかった」  その時の寿史の表情は悔しそうだった。  母親がΩで父親とマッチングするまで、苦労してきたのを聞かされていたのだと彼は言った。 「だからというわけではないけれど、俺が登録することで誰か一人でも生きるのに苦労したΩを助けられたならと」  でもそれよりも、と彼は続けた。  少し照れた顔で。 「家族がほしくて。父と母のような、仲の良い家族が」  その照れた笑顔を見たとき、この人とならきっといい番になれると思った。  圭もそうだったからだ。  一般家庭に産まれた圭はΩだとわかると両親と兄弟からいないものとして扱われるようになった。家族全員、βだったのに一人だけ。  高い抑制剤や、定期的な発情期は家族の負担になった。早く大人になって自分で稼げるようになれば迷惑がかからない。そうしたら今まで抑制剤でかかったお金は働いて返そう。  マッチングシステムを知って、これだと思った。これなら家族の誰にも迷惑をかけない。お金も返せる。  そして、今度こそ自分を受け入れてくれる家族を作りたい。暖かで優しい、笑顔の絶えない家族を。  この人と築いていきたい。  寿史と、一緒に。  ――ああ、離れたくないな。このまま別れるなんてイヤだな。  たとえ、システムが選んだ相手だったとしても彼との暮らしはとても満たされていた。子供ができなくても楽しくて、幸福で、毎日がかけがえのない時間。  国の支援なんか受けられなくてもいい。だからもう一度、彼と一緒に――。

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