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第8話

 診察は一人ずつ別々に行われるらしく、寿史とは別の診察室へと案内された。  二人一緒にいることをここにきて少しずつ減らされている気がして心細く感じる。  今まではどんなときも二人一緒だった。  寿史は普通に働いているから昼間は一人で家にいたけれど、家事をして過ごしていたら時間はあっという間に過ぎる。  毎日、寿史のために食事を作り、洗濯をして部屋の掃除をする。発情期になるとそれは全てできなくなるから、できるときは精一杯やっておきたい。  帰ってきた寿史が落ち着くように。ほっとして笑顔が溢れる、そんな顔が見たいから。  もうそれもすることはなくなる。これからは自分のためだけに家事をする。  寿史は器用だから一人でなんでもできる。発情期中に家事をしてくれていた寿史のほうが掃除は上手だし、食事も美味しい。それにすぐに次の番が見つかる。  これから先の寿史のことは何も心配することはない。もともとマッチングシステムはΩのためのものでαが登録したところでなんのプラスにもならない。それでも登録するのにはそのα個人に理由があるから。  優秀な遺伝子を持つαはほとんどが昔からのα血統が多い。そういう血筋のαがこのシステムに登録することはない。彼らの多くはα同士で結婚するからだ。  そういう血筋に産まれなかった普通の家庭で生まれたαも優秀なので社会に出てもすぐに出世して金銭的に困るようなことはない。  だから登録するαはΩより数が少ない。中には登録だけして放置しているαもいるくらいだ。  世間的にみて、登録しているαは身持ちが堅いという印象を持たれる。Ωのために自分を差し出す立派な人間だと。  その印象が目的で登録して、いざ相手が見つかると断られたりすることもある。  番になるのは強制ではないため、断られたらまたそこからやり直しになる。  だから圭も、あの彼女も運がいいのだ。どんな結果になったとしても番になれたのだから。 「では、内診しますので隣の診察台に移ってください」  医師の診察を考え事をしながら受けていた圭はハッとして立ち上がった。  内診は定期的に受けていた検診でもやっていたが、いつまで経っても慣れない。  Ωの身体は男でも子供が産めるようにできているし、αを受け入れるようになっているけれどそれと診察とでは全く違う。  これで赤ちゃんがお腹にいる妊婦の検診ならば、日々胎内で成長していく赤子の姿を確認することができて我慢もできるのに。

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