6 / 6
第6話 終章
「ヒトの世に存在しないモノ。ただそれだけ」
つまりは人ではないと柊は言う。
「しかし契約は成立した。日向は私の嫁になった。これはどんなことがあろうと違えることは不可能。……弱っているときに付け込むのが、私のようなモノ」
少し申し訳なさそうに、寂しそうに柊は言葉を綴る。
「……騙したようで、悪かった」
この森はこの世とあの世の狭間に存在する、世界だと柊は説明する。
人が迷い込むと、自力で元の世界に戻ることは出来ないらしい。
大抵はヒトでないものに取り込まれ、糧にされてしまうと。
(柊は助けてくれたのかな)
そう考えると柊にとっては最大の譲歩で、最大の愛情表現ともいえるだろう。
まだ、自分を必要としてくれる人がいる。
(かなり嬉しい……かも)
雨粒の反射する光が、日向の心の奥底を照らしていく。
(見えない先の未来は何が起こるか、本当にわからないもんだなぁ)
鼓動が早まる日向の目の前に、柊の手のひらが差し出された。
日向は自分の意思で、それに手をのせる。
「さぁ日向、共に行こうか。日向の住処へ」
ともだちにシェアしよう!