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第5話 暖かな居場所

「日向はどこへ行きたい?」 「家に帰りたいかな。何もないけど、自分の家だからさ」  友人だっている。  今は会えなくても両親だって、遠い場所で健在だ。  このよくわからない森から出て、家に帰ることができるなら帰りたいと日向は思う。 「……つらいだろうに」 「つらいよ……とてもつらい。それでも明日が明るいかもしれない。そう思いたい」 「そうか」  一緒について行くと言いながら、結局そうできない日向。 (これからどうしたらいいのか、迷って悩んでここに逃げてきたんだ。でも、どこへ行きたいと聞かれたら……家しかない)  日向は家族を失ったことで、自分の存在価値とか居場所とかすべてに迷っていた。  今も迷っている。 (疲れたときは逃げてもいいと思う。それでも逃げてばかりじゃ、答えは出てこない)  自分の道を見つけられるのは、自分だけだから。  雨でぬれた髪がふと温かくなる。  柊がやさしく日向の頭を撫でていた。 (心地良い……)  心の荒波が凪いでいく。  そんな優しさが、柊の手のひらから伝わってくる。 (ずっとそばにいてくれたら……いいな)  本当はずっと寂しかった。  祖母がいたから弱音を言わないようにしてきたけれど、本当は長い間ずっと寂しかった。  柊がそばにいてくれたら、もう少し頑張れそうな……そんな気持ちになる。 「日向は帰りたいか。なら、私のところへ嫁に来れないな」 (…………やっぱり、そんな都合のいいことはないんだなぁ)  心の中で期待していたものが冷えていく。  それを決めたのは日向自身。  雨粒が跳ねる地面へ、日向の視線が落ちていく。  草は雨と陽の光を浴びて生き生きと輝いていた。 「でも私の嫁になるだろう? なら、私が日向の家に行くとしよう」  予想もしていなかった言葉に日向は思わず、柊を凝視する。 「口約束でも契約は成立した。日向が私の住処に来れないというなら、日向の望むところで共に暮らそう。愛しい日向、私はいつもお前のそばにいると誓おう」 「愛しい? 会ったばかりなのに?」 「日向はこの辺りによく来ていただろう。いつも見かけていた。見守るだけにしておこうと決めていた」 (だったらなんで……)  日向の目を覗き込んでくる柊は、何もかも見通してしまいそうな雰囲気があった。  ふと笑みを浮かべた柊に、日向は目を奪われた。 (きれいで美しく冷たかった目が、温かい) 「ここは迷いの森。己に迷ったものが迷い込む場所。ならば、迷い込んだ日向を攫ってしまおうと考えていた。けど、日向のところで共に暮らしていくのも悪くない」 「嫁って、本気だったの?」 「ヒトのように嘘はつかない。日向は迂闊に承諾をしない方が身のためだったな」 「柊っていったい……」  頭を撫でていた柊の手は、日向の頬にそっと添えられる。     

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