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第1話
科学の進歩により、人類は今まで以上に長く生きることが出来るようになった。脳と神経以外の組織は全て人口で作れるようになったため、ほとんどの病気は完治し、体の失った部位は再生医療の進歩で自分の細胞から作り直すことができ、手がない足がないと言った障害もほとんどなくなった…。
そんな時代に入ると今度は『いつ死ぬか』という問題になってくる。ほとんどの病気や怪我が治る為、自然死という概念が存在意味を失いつつあるのだ。
そこで、『安楽死』『死期の決定』などが出来るように法律は変わった。またドナーの制度も変わった。ドナーとして提供するものは脳と神経の二つの項目になったのだ。そしてこれは自分の死をもっての提供になる為、提供者と受け取る側の面会が必須事項となったのだ。
「明日、手続きしに行くんだ…。連絡するから、絶対忘れないでね」
「うん…。分かった…」
これは兄と、兄の恋人になりたかった人の会話だ。兄は生まれつき脳に異常があり入退院を繰り返していた。
兄さんは今年で高校二年生になる。そしてその同級生、高瀬 文月(たかせ ふづき) は兄さんのことが好きだ。そして兄さんも彼のことが大好きだった。僕は文月さんが好きだった。元々兄さんと趣味が似ていたのもあったが、文月さんは僕ことを見てくれなかった…。
だから諦めた。病気のこともあり二人は付き合う事はなかったがとても幸せそうで、そんな二人を見ている時は心が少し癒されるのだ…。
病室の窓から外を見るくらいしか楽しみのない兄さんは、梅雨に入り雨ばかり見ているせいか最近は元気がない…。今日もまた雨がしとしとと降り続いている……。まるで、二人の最後の面会を悲しんでいるみたいだ…。
文月さんは明日死ぬ。兄さんの病気を治す為のドナーとなるのだ。しかし、兄さんはその事を知らない…。文月さんはドナーの手続きをしに行くのだが、兄さんには両親の都合で引っ越しをすると言ったのだ。
だから兄さんは引っ越しの手続きだと思っている。そして、明日死ぬ文月さんは僕にある事を託した。明日から文月さんとして僕は兄、さんに連絡をするのだ…。つまり、兄さんを騙して、『文月は生きている』という事にしなければならないのだ…。
「寂しくなるね…」
「うん、簡単には会えない距離だもんね…。僕も寂しいけど、ずっとそばにいるからね…」
「…うん」
文月さんは自分の命と引き換えに、兄さんを助け、兄さんの体の中で一生を、一緒に終えるつもりなのだ…。
僕は、そんな二人を見て、涙をこらえるのに、必死だった…。あんなに愛し合っているのに、付き合うこともできず、好きと伝えることもできず…。会えない人となるなんて……。
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