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第2話

それから事態が急変したのは次の日の朝だった。文月さんが手続きに行っている間に兄さんの容体が急変して、帰らぬ人となったのだ…。 そのことを知った文月さんは、兄の病室のあった四階の部屋の窓から飛び降りた…。兄と同じところに行きたかったのだろう…。幸か不幸か、すぐに処置が施され命に別条はなかったのだが、精神的なショックが大きかったのか一週間ほど眠り続けた…。 飛び降りた時に脊髄の神経を痛めてしまったようで下半身はもう動かないだろうと言われた。僕は文月さんの体を治すためにドナーになることを決意した。 これは僕の勝手なエゴだ。好きな人が辛い思いをしているのを見たくないというエゴ…。 下半身不随になれば生活し難くなる。そんなの見ていられなかった…。 文月さんが飛び降りたその日にドナーの手続きをして、二日目に手術をした。その日の天気はまるで『生きたくない』とただをこねるような土砂降りの雨だった…。 「……誰?」 「…はじめまして、高野 睦月です。文月さん」 「文月…それは、僕の名前かな…?」 「はい」 一週間後に目覚めた文月さんは、記憶喪失になっていた。兄さんが死んでその現実を受け入れられなかったのだろう…。 「僕、記憶がないみたいだ……」 「文月さんには恋人がいました…。僕の兄です兄は病気で亡くなりました。そのショックで、記憶をなくしてしまったみたいです」 「そうなんだ…、だからこんなに心が冷たくて寒いんだね…。そっか……そ、か……」 僕は、嘘をついた…。 文月さんは静かに泣いていた…。 パラパラと降る雨の音しか聞こえないくらい、声を出すこともせず泣く文月さんをみて、僕は謝った…。僕のエゴで彼はなんの障害もなく、生きる事になってしまったことを…。 「そう…。僕は僕の体から何一つかけてない状態なんだ…。かけたのは、心だけなんだね…」 「ごめんない…。僕のエゴで……」 「ううん。君にも悪いことをしたね…。兄と、その友人。僕と君は、幼馴染だったりしたのかなぁ…?兄と幼馴染を同じ日に亡くすのは、辛いもんね…。ごめんね……」 兄と幼馴染…。その通りだな…。でも、僕は、兄と "初恋の相手" を同じ日に亡くすところだったんだとは言えなかったし、言う気もなかった それを言ったら文月さんはきっと今よりも傷ついてしまうから…。その後、文月さんは頑張って生きていたが、やはり失った心が兄さんのことを思い出させるのか、不意に誰がを探す仕草をしたり、手で何かを掴もうとしたりしていた そして一年後、彼は死んだ……。精神が耐えられなかったのだろう…。文月さんは、病院の屋上から飛び降りて、打ち所悪く即死だった…。 僕が無理やり生かしてしまったせいだろうか…。何度も何度も、自分責めたが、兄も文月さんも帰ってこない……。辛かった…。 ただ、慰めではあるが、きっと天国で兄さんと文月さんは恋人になり今は幸せを噛み締めているんだろうなぁという事だけが救いだった…。

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