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プロローグ(2)

首をのばして裸足の爪を見ると、白い部分がだいぶ伸びている。 少し動くだけで、腰の火傷がひりひりと痛んだ。 綾人の左の腰骨の上には、小さなほくろが二つ並んでいた。恋人の和臣は、前戯のときいつもそこにキスをする。はじめはくすぐったかっただけなのに、肌を重ねるたびに感じるようになった。 そこに和臣の熱い舌が這うと、もどかしさと期待に身をよじるようになった。その後の行為が、溶けるように甘く幸せなことを知ってしまったからだ。 昨夜、綾人は和臣の夢を見ていた。初めての恋人。満ち足りた同棲生活。腰骨に触れた指の感触に、綾人は甘えた声をあげた。 「んん…… やだ、和臣ぃ…… 」 その瞬間、強い衝撃を感じて身体が跳ねた。夢からうつつに引き戻された綾人が見たのは、腰骨のほくろに押しつけられてひしゃげた煙草と、のしかかるあいつの大きな身体だった。 あいつは暗く怒りに燃えたような目で綾人を見ていた。 感じた衝撃が煙草の火で肌を焼かれた痛みだったことに気づき、綾人が短い悲鳴を上げて身をよじると、あいつは綾人に押しつけた煙草を灰皿でつぶして薄く笑った。 そして綾人の脚を開かせた。 腰の皮膚がひきつれ、鋭い痛みに悲鳴を上げる。綾人には、凌辱に抵抗する気力はすでになかった。ただ、焼かれた腰骨をシーツにこすらないよう、よじれて痛みが増さないよう、そこをかばうことだけに集中して身体を蹂躙された。 朝になるとあいつはいない。 束の間の自由だ。いや、鎖につながれ監禁された身に自由などないのだが。 綾人はベッドの脇に置かれたコンビニの袋を横目で眺めた。中身はきっとペットボトルのお茶と、サンドイッチかおにぎり、ヨーグルト…… そんなところだろう。 あいつが置いていくのだ。 今は何も食べる気がしない。本能とは恐ろしいもので、死ぬほど空腹になれば無意識のうちに食べ散らかしている。自分がそういう卑しい生き物だと、綾人はすでに知ってしまった。 腹がごろごろしている。記憶が定かではないが、おそらく昨日から何も口にしていないのに。そもそも、あいつが毎晩のように体内に放出するせいで、綾人はいつも腹が痛かった。 和臣は、一度だって生で中に出したことなんかなかったのに…… 自分の体内が四六時中あいつの体液で汚れている。 そう思うと、身体中に虫が這っているような嫌悪を感じた。 それでも、一方的な凌辱に耐えていた頃の自分ならまだ、いつか帰ることを夢見て矜恃を保っていられたのに。

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