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土曜日(2)
その夕方、和臣はナギサと近所のスーパーに買い出しに行った。
全く帰る気のないらしいナギサが、冷蔵庫に満足な食材がないとわめいたからからだ。
「おいしいもの作ってあげるからさぁ。」
媚びを売るようなナギサに、夜までいるつもりなのかと和臣は閉口したが、断ってしつこく食い下がられるのも面倒に思えて、結局連れだって土曜のスーパーマーケットに足を運んだ。
住宅街にあるその店は家族連れで混み合っていて、カートを押す異様な男二人も、その雑然とした日常の風景の中にうまく埋没したようだ。
文字通り手ぶらでついてきたナギサに期待するべくもなかったが、支払いは和臣がした。
それどころか、荷物も和臣が持った。寒い日は鍋に限るよねぇ、などとうそぶくナギサに促されるままに買った魚や野菜はかさばり、バッグ二つ分になった。もう2年以上一人の生活で、二つ目のエコバッグを開いたことなどない。片方だけだとバランスが悪いだのと理由をつけて、ナギサはそれを両方和臣の肩にかけさせた。
「オレ、もやしっ子だから、箸より重いものは持てないんだよねぇ。」
そう言って笑うナギサの足取りは軽い。
さすがにカチンときて和臣が口を開こうとすると、ナギサはするりと顔を近づけて、
「それにエトぉ、オレ一晩中愛されてぇ、腰ががくがくなんだぁ?」
耳元でささやいてにんまりと口角を上げた。
言葉に詰まって黙々と歩き始めた和臣を見て、ナギサは小鼻のピアスを光らせてけたけたと笑った。
和臣を追い越したナギサが一歩先に、スーパーからのゆるい坂道を下る。自然光の下だと、ナギサの頭は一層きらきらと光る明るい金髪だった。
細い眉毛も同じ色に染めてあるが、大きな目を覆うまつげは案外艶のある黒毛だ。
そのまつげが濡れて震える様子を、潤んだ瞳を、ふいに思い出した。
綾人も、悦 くなると涙目になったよな……
かつての恋人の姿が脳裏に浮かぶ。ツキンと胸が痛んで顔を伏せた時、和臣の目が街路樹の植え込みに吸い寄せられた。
冬枯れの街路樹の根元の、少し雑草の生える土の部分に、アイスの棒が棄てられていた。
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